びおの珠玉記事

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瀬戸の漁港

室本漁港(観音寺市)

室本漁港(観音寺市)


香川県のあまり注目されていない財産の一つに「漁港」があります。豊かな漁場瀬戸内海をバックに香川の漁業は栄えました。「播磨灘」「備讃瀬戸」「燧灘(ひうちなだ)」という3つの海域に面し、それぞれの海岸線は複雑に入り組み起伏に富む海底は天然礁をつくり、多数の島々は、潮流の緩急に変化を与え、海水は周辺地域の河川から流入した栄養分のある水をたたえています。瀬戸内海は魚類が生息するのにうってつけの自然・地理条件をそなえているのです。
仁老浜漁港(詫間)

仁老浜(にろはま)漁港(詫間)

生里漁港(詫間)生里(なまり)漁港(詫間)

肥地木漁港(詫間)肥地木(ひじき)漁港(詫間)

複雑に入り組んだ海外線には数多くの小さな漁港があります。それらの漁港は昔ながらの石積みの防波堤で入り江をつくり、静かな水面に漁船が浮かぶ光景は、青い海と空、小高い山と相まって瀬戸内海の漁港独特の風景を醸し出しています。そこには世間の喧噪から離れた一種独特のスローな空気感が漂っています。

大浜漁港(詫間)大浜漁港(詫間)

曽保清水漁港(仁尾)曽保(そほ)清水漁港(仁尾)

室浜漁港(詫間)

室浜漁港(詫間)

漁師さん達の暮らしが息づいた漁港は、潮の干満や天候、停泊する漁船の数や夕日など刻の違いによる陽の具合、波の状態など一時たりとも同じ光景はなく、見ていて飽きません。人が漁業という生業を通して海やそこに生息すると魚介類と共生していることが、自然で美しい光景をつくりだしているのだと思います。

箱浦漁港(詫間)箱浦(はこうら)漁港(詫間)

須田漁港(詫間)

須田漁港(詫間)

積漁港(詫間)

(つむ)漁港(詫間)

ここでもコンクリートの防波堤や護岸は景観を破壊します。それだけではなく、石積の防波堤は魚介類の生息空間(ビオトープ)として機能しますが、コンクリートのそれは生態系にも悪影響を与えます。美しい景色というものは自然と共生していることが必要条件であるとあらためて感じます。
多度津漁港

多度津(たどつ)漁港

小坂漁港(本島)小坂漁港(本島)

笠島漁港(本島)笠島漁港(本島)

今、昔ながらの石積の防波堤がコンクリートや魚礁にとって替わられようとしています。箱庭のような美しい景色としての漁港を後世に残していきたいものです…。

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2012年11月12日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。