特集
食中毒
- 小
- 中
- 大
節電で食中毒が増える?
この夏はかつてない「節電ブーム」が起こっています。発電所が被災した東北電力、東京電力だけでなく、政府の要請により浜岡原発を停止した中部電力、そして原発依存度が高く、かつ点検からの運転再開ができないとして、直接発電所が被災していない関西電力も15%の節電を呼びかけています。
家庭でも、照明を落としたり、エアコンの温度設定を高めにしたり、冷蔵庫の強弱スイッチを弱くしたり、という措置をとっている方も多いでしょう。
気温や湿度が高くなると、怖いのが、食中毒です。
夏場の食中毒は細菌によるものが多く、これらは気温が高くなると繁殖力を増し、食中毒を引き起こします。
今年は、焼肉店での生肉による食中毒死亡事件や、ドイツを中心に発生している腸管出血性大腸菌などが話題になっています。
楽しいはずの食事で死者まで出してしまう「食中毒」とはなんなのでしょうか。
食中毒とは
食中毒というと、腹痛・下痢を想像する方が多いのではないでしょうか。日本では、古くから食中毒というと、主に細菌による胃腸炎を指してきました。
厚生労働省の統計でも、平成9(1997)年までは原因物質として大きく「細菌」「化学物質」「自然毒」の三種にわけられていましたが、平成10(1998)年からは、大項目に「ウイルス」と「その他」が追加されました。
平成12(2000)年からは、従来「化学物質」の中で「エタノール」と「その他」にわけられていたものが、「化学物質」ひとつにまとめられました。食中毒の原因物質にも時代と共に変化が見られます。
厚生労働省:食中毒に関する情報
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html
細菌では、冬場になるとノロウイルスの感染防止が呼びかけられるようになりましたが、つい十数年前までは、このウイルスによる発症は食中毒としては統計されていなかったのです。
一方でメタノールが項目からなくなっていることは、実質メタノール中毒者が出ていないことからの措置のようです。戦後はメタノール由来の安価な密造酒(メチルアルコール)による中毒が相次いだこともありましたが、現在ではこうした中毒は皆無になっています。
食生活の変化等により、食中毒も時代により変遷があるのです。
食中毒事件と実態
今年に入って起こった生肉による食中毒事件は、実は生食用として出荷されている牛肉は皆無だったという事実が世間に衝撃を与えました。
食中毒の統計では、原因物質、食品、都道府県別、施設別発生状況などを見ることができます。構成比率では飲食店がおよそ半数をしめるのですが、実態はおそらく大きく異なるのではないでしょうか。
飲食店で食事をして少々お腹を壊したとしても、それが数人バラバラであれば、事件として報告されることは稀ではないでしょうか。家庭でも同様です。家で料理をして嘔吐・腹痛を起こしても、原因などわからずじまい、どこにも届けない、というのが普通のケースでしょう。統計にあがっていない食中毒は相当にあり、実態は見当もつかない、といっていいかもしれません。

食の安全神話を打ち砕いた事件でした。
パッケージされ、安全として売られている物がすでに毒物に汚染されている―社会に大きな衝撃を与えました。
今年に入って起こったユッケによる焼肉店食中毒は、死者も出てしまう大変痛ましい事故でした。
流通から焼肉店での処置までさまざまに問題があったことがすでに報じられている一方で、「生食にはリスクがある」という知識を持ち、食べない、という選択肢が出来た、という点に違いがあります。
(余談ですが、この事故は、厚生労働省の食中毒発生事例速報には、6月11日の時点で、未だに掲載されていません。これは食中毒ではないのでしょうか。あるいは報告がなければ掲載しない、ということなのでしょうか。)
どんな食品にも多かれ少なかれ細菌はいると思ったほうがよく、自分の体力・体調が細菌の量に負ければ(細菌の増殖を許せば)、食中毒が起こってしまいます。
知っておきたい食中毒知識
手をよく洗う、調理器具を清潔にし、生食用と加熱用で使い回しをしない、加熱する、ということが予防策としてあげられています。でも、これだけでどんな食中毒からも身を守れるわけではありません。
加熱は万能ではない
セレウス菌という菌があります。芽胞形成型で、一般的にいう「75°C以上で1分間」の加熱では死滅しません。100°Cで40分間耐えるといわれています。米一袋に必ずいると思ったほうがよいほど普通にいる菌です。
ただし、大量の菌がいなければ食中毒は起こしません。加熱後、温度が下がってくると増殖するため、「作ったらさっさと食べる」あるいは「すぐに冷まして冷蔵庫に入れる」というのが予防手段です。
鮮度がよければ大丈夫、ではない。
焼肉店食中毒では、汚染された表面を削り取るという、肉のトリミング(をしていなかったこと)が話題になりました。鮮度が悪いから菌がいた、というわけではなく、菌がいる部位を取り除くことがより重要だったということです(もちろん鮮度が落ちれば菌が増殖しますのでリスクが増しますが)。
生き腐れといわれるほど傷むのが早い鯖でも、実は鮮度だけがリスクではないことがわかってきました。
九州では鯖を刺身で食べますが、東日本では鯖の生食習慣はほとんどありません。鯖に寄生するアニサキスは、人に感染すると激しい嘔吐と腹痛を起こします。
この寄生虫アニサキスは鯖の内蔵に寄生していますが、太平洋側の鯖と日本海側の鯖では種類が異なり、太平洋側のアニサキスが肉質部まで寄生しているのに大して、日本海側の鯖では内臓部に留まっていることが多いという研究結果が報告されています。
鮮度ではなく、そもそも食中毒の原因物質の種類が異なる、ということです。所変われば食変わる。
生食用牡蠣と加熱用牡蠣も、鮮度だけの問題ではありません。生食用牡蠣は、紫外線殺菌を経て出荷されますが、加熱用は殺菌処理が行われていません。鮮度でわけられているわけではありません。
臭いがしなければ大丈夫?
腐敗菌によって食品が腐ると臭いを出しますが、食中毒を起こす菌には無臭のものもあり、臭わなければ安全、ということは決してありません。臭いだけに頼ってはいけません。
洗わないほうが汚染が防げる?
ドイツの食中毒で話題になっているモヤシ。犯人じゃなかった、いややっぱり犯人だったと連日報道されています。
ドイツの事件の真相はまだわかりませんが、モヤシは菌が繁殖しやすく、食中毒菌に限らずかなり多くの細菌がいるといわれています。万一食中毒菌がついた場合の繁殖も早く、洗うことでザルやシンクを却って汚染してしまうため、洗わずにいきなり加熱することで周辺の汚染を防ぎます。
(ここに挙げた例は主に細菌による食中毒への対策で、化学物質や自然毒に対しては必ずしも当てはまりません。ご注意ください)
夏場に多い細菌性の食中毒と戦うには、「菌をつけない、増やさない、やっつける」の三原則が基本です。プロとして食を提供する人たちや家庭の食卓を預かる人はもちろんですが、主に食べる側、という人たちがこの原則を理解しておくことが大切です。どういう食べ物が、どんなシチュエーションで危なくなるのか。知識を身につけ、夏の食中毒シーズンを健康に乗り切りましょう。
参考文献
これだけは知っておきたい食中毒・感染症の基礎知識
食品汚染はなにが危ないのか ~ニュースを読み解く消費者の科学~ (知りたい!サイエンス)
雪印の落日―食中毒事件と牛肉偽装事件






コメントはこちらから!