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風評被害

文/佐塚昌則
2011年05月26日 木曜日
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地元の自然食品店に立ち寄ったときのことです。

これまで仕入れていた関東某県産の野菜の入荷をやめたとのことでした。
出荷制限がかからず流通可能なものを入荷しない。これは、俗にいう「風評被害」なのでしょうか。
マスメディア的に報じれば、これも「風評被害」になってしまうのかもしれません。
しかし、無農薬・低農薬の野菜を扱うこうしたお店は、通常の商取引以上に生産者との関係が濃密であることが多く、だからこそ、そうとう悩んだ上での、まさに苦渋の決断だったそうです。
もともと自然に出来るだけ近い、安全な食品を届けたい、手に入れたい、という人たちの店としては、国の規制値を下回っていればそれでよい、という判断はできなかったのでしょう。
私には、これを「風評被害」だと断ずることは出来ませんでした。

疑わしきは避けるということ

原発事故からずっと、放射性物質による飲料水や食品の汚染が報道されつづけています。
こうした報道につきものの「風評被害」。わかったようなわからないような言葉ですが、「何かの事件・事故の影響で、問題ないものまでとばっちりを受けること」となるでしょうか。

「風評被害」という言葉が使われだしたのは、原子力船「むつ」の放射線放出事故と、それに伴う補償問題からだとされています。
その後、かつての病原性大腸菌O157騒動では、カイワレ大根が原因の可能性があると伝えられると多くのカイワレ生産者に経済的被害が発生し、現総理の菅直人厚相がカイワレサラダを食べて火消しを行うという出来事もありましたが、JOC臨界事故のような原子力事故、狂牛病、口蹄疫といった(人間には伝染しないとされる)伝染病によるものなども起こっています。

かつて、中国産の野菜やウナギから安全基準量を上回る農薬や抗菌剤が検出されました。
このとき日本社会は、中国の野菜全てが汚染されているように捉えていたような節がありました。
検査の結果の割合を調べずにこのようなことを書くのは暴論かもしれませんが、こうした中国産の野菜やウナギなどの中にも、いわゆる「風評被害」があったのかもしれません。
しかし日本社会はそうは受け止めずに「食の安全」という問題として国産信奉に向かっていったように思えます。

実際には、無自覚に外食・加工食品を食べれば中国産を避けることは難しいのでは、とさえ思えます。
日本の農作物も、全量検査をしているわけではありませんから、農薬が多く残留している可能性もあるかもしれません。
農薬は基準を守れば安全だ、ということになっています。
それでも、より安全を求めて無農薬・減農薬の食品を求める人もいます。

では、放射性物質については、同じ考え方が通用するのでしょうか。

作為に関わらず汚染される

農薬の使用は、いわば基準の中で出来る限り生産性を高めようというものです。基本的には生産者にその使用が委ねられています。
一方で、放射性物質による汚染は、生産者の意図に関わらず、地域を襲ってくるものです。防ぎようがないのです。
この点が決定的な違いです。

福島県だけでなく、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県で原子力災害対策特別措置法に基づく出荷制限が行われました。
こうした地域でも、実際には出荷制限が行われていない場所・種類のほうが多いのですが、「〇〇県産の△△に出荷制限」という見出しを見れば、多くの人が、その他のものも危ないような気がする、という印象を持ちます。市場関係者は、おそらく消費者が購入を控えるだろうから、流通を控えようとします。識者といわれる人たちが、さまざまな意見を発表します。行政が風評被害の無いように、と声明を出します。マスメディアがこうしたことをまとめて伝えることで、より一層の「風評」が大きくなります。

神奈川県南足柄市でも自主的な検査によって基準を上回る放射性セシウムが検出され、県が出荷自粛を求めました。
静岡県では、厚生労働省から求められた荒茶(茶葉を乾燥させたもの)の検査を拒否するという事態が起きています。
荒茶は乾燥により重量が大幅に減っているため、生茶と同一基準では値が大きくあがってしまい、生茶と同じ基準では検査にひっかかりかねない、ということを懸念してのことです。
川勝平太静岡県知事は、「消費者に無用の混乱を招く」としていますが、「静岡のお茶が検査を拒否」と報じられることで、かえって「風評被害」をまねくことにもなりかねません。
(「びお」編集部は静岡県にあり、昨日の時点でも普通に県産のお茶は売られていました。いままでのところ、静岡のお茶から基準値を越える放射性物質は検出されていません。)

安全なのか、安全ではないのか。

飲料水に含まれるヨウ素131やセシウム137の暫定基準値が、事故後に1リットルあたり300ベクレルに定められました。
WHOの基準では要素131は1リットルあたり10ベクレル、IAEAの定める核有事の飲料水の基準値は1リットルあたり3000ベクレルです。日本ではこの値を300ベクレルとしたことで、WHOの30倍だという印象がありますが、IAEAの基準値の1/10に過ぎない、という見方もできます。
私を含めたほとんどの一般市民は、放射性物質を検出することも出来ませんし、その値がどのぐらいだったら「自分や家族に害があるのか」はわかりません。だからこそコワイわけですね。

わからないものを遠ざけようとするのは、「安全でなさそう」だからです。これは消費者としてごく当たり前の行為に思えます。風評被害の加害者になるのは恥ずかしい、という思いと、でもやっぱり安全でなさそうだから、という葛藤に襲われる人もいれば、迷わず「安全でなさそう」と判断する人も、そして被災地支援のために被災地のものを買う、という人も居ます。
全量検査を行って数値を確認してそれを表示すること、そしてそれに掛かったコストの補償を求めていく、という方向に行動していくことが、俗にいう「風評被害」への対抗策ではないでしょうか。

チェルノブイリ事故の時には、日本は輸入野菜に、いま国内で流通させている野菜の基準値(1キロあたり放射性ヨウ素500ベクレル)よりも厳しい基準(同370ベクレル)を設け、クリアできなかったものの輸入を禁じていました。
輸入の場合と、自国での有事では訳が違う、ということもあるかもしれません。370ベクレルがよくて500ベクレルが悪いかどうか、残念ながら私には検証する術がありません。でも、検出量が少なくても、たくさん食べれば多くの放射性物質を摂取することになるのです。

一般的に、基準値にはさらに安全マージンがとられていますが、「基準値クリア」=安全と判断するかどうかは、農薬問題と同じで最終的には消費者が判断しなければなりません。
そのための材料が少ないことが、私たちの不安をかきたて、風評被害といわれるものを引き起こすのです。

国もそうした基準値について、ちゃんと説明すればいいのにね、と思うのですが、科学的知見があるはずの原子力安全委員長が「可能性はゼロではない」は「事実上ゼロだ」などと言い出す始末ですから、もはや説明を信用しろというのが無理かもしれません。


かつてある大物ミュージシャンの大麻所持事件で、取材記者が子どもたちへの悪影響を糾弾したところ、「それを子どもたちにしらせるのはあなたたちではないか。だったら報道するな」と言った、という逸話がありました。
これは詭弁ですが、こと風評被害に関しては、同じような印象が拭えません。

被害にあっている産地から見れば、「こんなに離れているのに」「同じ県だというだけなのに」という思いもあるかもしれません。でも消費者は〇〇県ということで一緒にしてしまう。
「風評被害」は、日本的なイメージがありますが、日本が現在一部の外国から受けている扱いと同じです。このときにただ安全ですと訴えることに、どれだけ効果があるでしょうか。ある程度離れた場所であっても科学的知見に基づく根拠を見せるしかない、と思うのですが、それは行き過ぎなのでしょうか。

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