色、いろいろ。

彼岸花

版画/たかだみつみ 文/小池一三
2010年09月23日 木曜日
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彼岸花の版画

今年の夏はたまらなく暑い毎日が続きました。一体、この暑さはいつまで続くのかと思っていましたら、ある日、冷涼を感じる朝がやってきて、数日、涼しい日がありました。そうしましたら、また暑さがぶり返してしまいました。
それでも日一日経るごとに、朝夕、秋がやってきます。
昔、東欧のハンガリーを旅していたとき、雨が降って、一日で夏から秋に転じたことがありました。その前日まで半そで姿だったのに寒くてならず、とうとうブダペストの街でセーターを買うことになりました。セピア色のセーターです。今でも秋が訪れると、お気に入りのセーターを、タンスの奥から出して着込んでいます。
ある日、突然にやってくる秋は、カナダのオタワで似た経験をしていて、この時は、一本の樹の上部は紅葉で、中ほどは黄葉で、下部は緑色の葉がついていて、それを写真に撮り、帰国した後、得意げにみんなに見てもらいました。
日本の秋は、日中は暑く、段々日が短くなるにしたがい朝夕の涼しい時間が増えていくという感じです。そんな季節と歩調を合せるように咲くのが、曼珠沙華です。この花は、枝も葉も節もない花茎が地上へと突出し、花はその先端に輪生状に咲きます。
田畑の畦道、堤防、墓地などに咲きますが、俳人の尾崎放哉が最後に過ごした四国小豆島のお寺の墓地を訪れたとき、列をなして咲いていたのが最も印象的でした。

曼珠沙華は、梵語(サンスクリット語)で赤い花をいいます。天界に咲く花という意味です。おめでたい事の兆しに赤い花が天から降りてくる、という仏教の経典に基づく言葉といわれます。山口百恵に『曼珠沙華』という唄がありますが、阿木燿子の作詞は「まんじゅしゃげ」ではなく、「まんじゅしゃか」と振り仮名がついています。梵語に込められた意味を表そうとしたのだと思います。

曼珠沙華は、いろいろな別名があります。
代表的なものは、彼岸花(ひがんばな)です。彼岸ごろから開花するというだけでなく、これを食べた後は「彼岸(死)」しかない、という不吉な意味だそうで、死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、剃刀花(かみそりばな)、狐花(きつねばな)、捨子花(すてごばな)、天蓋花(てんがいばな)、墓花(はかはな)、毒百合、親殺しなど、この花には、どういうわけか不吉な呼び名がついてまわります。

柳田國男は『野草雑記』の中で、「東京の郊外で彼岸花、俳諧で曼珠沙華などといっている草の葉を、奈良県北部ではキツネノカミソリ、摂津の多田地方ではカミソリグサ、それからまた西に進んで、播州でも私たちは狐の剃刀と呼んでいた」と書いていますが、この花、国内だけで1090もの里呼び名があるといいます。概して暗い呼び名が多く、それだけ、この列島に住む人は不幸が多かったのだろうか、と思えたりします。
お隣の韓国では、「想思華(サンシチョ)」という名前がついています。「花は葉を想い、葉は花を思っている」という意味だそうで、美しい呼び名です。これを聞いてホッとしました。

まんじゅさげ蘭に類て狐啼    蕪村

弁柄の毒々しさよ曼珠沙華    森川許六

此のごろの西日冷たし曼珠沙華    大島寥太

曼珠沙華抱くほどとれど母恋し    中村汀女

曼珠沙華さいてここが私の寝るところ    種田山頭火

労農の鎌に切られて曼珠沙華    西東三鬼

われにつきゐしサタン離れぬ曼珠沙華    杉田久女

曼珠沙華日はじりじりと襟を灼く    橋本多佳子

久女と多佳子の句は、何ともすさまじいですね。

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  1. まりよさんからのコメント

    2011/12/16(金)17:35

    俳句だけ読みました。(大島寥太の句があったので)

  2. サヅカさんからのコメント

    2010/9/28(火)11:23

    青空さん

    コメントありがとうございます。
    スイカのジャムではお役に立てなかったかと思いますが、喜んでいただけてとても嬉しいです。
    今年は猛暑で彼岸花の咲き具合ももう一つのところもあるようですが、来年が楽しみですね。

  3. 青空さんからのコメント

    2010/9/28(火)09:48

    こんにちは。
    スイカのジャムで検索しているうちにこちらの彼岸花の版画にたどり着きました。
    あまりにも素敵で感動しています。
    素敵な芸術作品に出会えるだけで体の細胞がよみがえる気がします。
    ありがとうございます。
    先日、我が家の庭にも彼岸花の球根を植えました。
    楽しみです。

  4. koikeさんからのコメント

    2010/9/24(金)09:01

    今朝、3時ごろに起きて原稿を書いていましたら、ブルッと来ました。思わず毛布を出してきて、身体に巻きつけながら過ごしました。自然の変化は、すごいものですね。
    次回は、抜けるような秋の空を書くことになっています。

  5. 黒蝶さんからのコメント

    2010/9/24(金)05:49

    暗く不吉な呼び名が多い花、曼珠沙華:彼岸花ですね。
    紅く燃えるように咲く佇まいは、秋の陽に焼かれるようで、
    私にとっては、どこか胸が締め付けられえるような想いのする花です。
    影が伸びて、日が短くなる頃に出会うからなのでしょうか?
    「想思華(サンシチョ)」という名前を聞いて、私もホッとしましたが、
    暗いイメージも結構好きです(笑)

    もう秋ですねぇ・・・。

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