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書評:『旅の窓から』山口由美著

文/小池一三
2010年07月13日 火曜日
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旅の窓からこの本は、ホテル業界誌の『月刊ホテル旅館』連載の巻頭エッセイを抜粋したもので、この連載は、2003年に開始され、今も続いています。

タイトルの『旅の窓から』が象徴するのは、ホテルの窓から見える風景です。この風景は即物的なそれではなく、そのホテルをめぐる前後左右、そのホテルが置かれた地理的・歴史的な意味合いに及んでいて、読者は居ながらにして、世界の一流ホテルの深部に分け入ることができます。

冒頭の章は「南太平洋」で、最初に「王朝の始まりと終わり――ハワイ」が取り上げられています。ハワイのカメハメハ王朝は、ハワイ観光のカタログに触れられていても、「カメハメハ」という名前にハワイらしい陽気を感じるだけで、この言葉自体「孤独の人」「寂しい人」という意味があることを、ほとんどの人は知りません。ハワイは、外から持ち込まれた疫病とアルコールによって身体を蝕まれ、歴代の王はことごとく短命です。明治14年に日本に国賓として迎えられたカラカウア王の即位は、カメハメハ一世の即位からわずか79年後だと、この本は指摘します。

こうした周到にして丁寧な記述は全編に及んでいます。そして、ハワイについては、カラカウア王が日本の皇室に縁談を持ち込み、実現はされませんでしたが、もしかしたら日本に嫁いだかも知れない王女カイウラニについて、憂いをたたえた瞳のお姫様であったと書いています。このお姫様は23歳で亡くなりますが、そんなハワイのもう一つの世界を、一篇2000字で読むことができます。

それが46篇にわたって繰り広げられるわけですから、旅好きの人には堪えられない本です。章立ては、南太平洋(ハワイ・イースター島・フィジー・ラバウルなど)、アメリカ大陸(ニューヨーク・アラスカ・マイアミなど)、ヨーロッパ(イギリス湖水地方・パリ・南仏・バスク・スイスレマン湖・北イタリアなど)、アフリカ(南アフリカ・ジンバブエ・ボッワナ・ナミビアなど)、アジア(モルディブ・インドリシケーシュ・ミャンマー・バンコク・ベトナム・ホルネオ・上海など)、日本(日光・箱根・横浜・奈良・高知室戸岬など)になっており、知らないことが多くて、ページを開くたびに、山口由美さんの『旅の窓から』見える世界が広がります。

(千早書房刊 定価1,500円+税)

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