特集

永田昌民さんに設計してもらった 仙台に嫁いだ娘の家。

文/小池一三(住まいネット新聞びお編集部) 写真/岩為
2010年06月27日 日曜日

障子の外には広い木製デッキが連なり、窓を引き込むと実際の面積以上の広がりをもたらす。左手の窓からは近隣にある公園の伸びやかな緑を借景することができる

障子の外には広い木製デッキが連なり、窓を引き込むと実際の面積以上の広がりをもたらす。左手の窓からは近隣にある公園の伸びやかな緑を借景することができる

住宅建築 2010年 08月号
住宅建築 2010年 08月号 目次

住宅建築 2010年 08月号
【特集】永田昌民 営みの輪郭

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住宅建築 2010年 08月号

住宅建築 2010年 08月号

『住宅建築』が隔月刊になり、そのリニューアル第1号の特集として永田昌民さんの仕事が取り上げられ、そこに仙台に嫁いだ娘の家が載りました。この永田特集は、ほぼ一冊、永田ワールドで満たされていて、この建築家の魅力で横溢しています。娘の家のほかにも、町の工務店ネットの藤原木材さんが施工された「出雲の家」なども掲載されていて、田園風景の中に佇む永田ワールドがステキです。

小さいけれど大きく住める家

「出雲の家」は、とても大きな家ですが、わが娘の家は、敷地39坪、建坪24坪の小さな家です。けれど、ほかの永田さんの設計の家がそうであるように、小さくても大きく住める家です。岩為さんが撮られた写真で分るように、それはもう一つの宇宙と呼び得る空間になっています。
わたしは「出雲の家」を2回見ていて、「びお」でも取り上げました。娘の家と比較すると、月とスッポン、この特集号のなかで対照をなす大きな家といってよいでしょう。その2軒が遊離しているかといえば、広さや、用いられている材料は、大きく異なるのに、空間のクオリティにおいて変わりありません。
嘘だと思う人は、この雑誌を手に取って比較してみれば、よく分かります。大きな本屋さんに行けば買えるので、ぜひ、求めてください。

若くして根城を持つこと

わたしの娘は、東京の大学を出ると、家に戻ることなくそのまま仙台に嫁ぎました。相手は、大学時代の友人の友人ということでした。まあ、攫(さら)われたようなものでしたが、運命と思うほかありません。
娘は、わが家では高校までの家の子でした。娘の高校時代は、わたしの仕事が多忙を極めていたので付き合いが浅く、幼い頃の記憶ばかりが鮮明です。果たして、遠い仙台に嫁いでやって行けるものか、ずいぶん心配したものです。
 その娘が、何とか仲良く暮らしていることが分り、ほっと胸を撫で下ろしました。そうして6年が経過しました。ある日のこと、自分たちでせっせとお金を貯めて(といっても自己資金150万円でしたが)、予算に合った土地を探し出したので、設計を永田さんにお願いできないか、と電話で言ってきました。
わたしは、えっ! と声を挙げました。
永田さんは建築主のフトコロを計って設計を請ける人ではないけれど、収入から推して「建売住宅」の予算程度しか用意していないだろうから、いかに何でもキツイ話だと思いました。娘は、「家は若いうちに建てておけって言ったじゃない」と言います。年を取って住宅ローンに追われるより、家賃代わりにローンを支払うのがよく、第一、根城を持つことになって気持ちが落ち着く、などと正月で寄り合ったときに、ムコどの(わが家では、そう呼んでおります)の目を見ないで、天井に向かってつぶやいたっけ・・・。

建築予算は1800万ぽっち

とは言っても、ほかでもない一流の建築家に依頼して建てるのは、大胆発想というべきことで、わたしの方があたふたし、ひどく戸惑ったのであります。
 永田さんは『住宅建築』のなかに、冒頭、この家づくりの経緯をこう述べています。

 「友人のKさんから、仙台に嫁いだ娘さんの住まいを設計してもらえないかとの依頼からこの家はスタートした」

 その土地は「小さな敷地に小さな古い家が建ち並ぶ狭い路地の突き当たりに位置していた。第一印象としては結構むづかしいかなとの思い」を持ったといいます。やっぱり苦労を掛けた家でありました。
 永田さんは、ここには書いておられませんが、何しろ予算が予算です。土地代に1200万円、建築費に1800万円。娘は、これ以上は出せない、とピシャリといいます。土地、建物合わせて35年ローンで月12万円の支払いは一般家庭ではギリギリのゾーンなのよと、そこはちゃっかり計算していました。それならそれで分相応ってことがあるだろ、と思いましたが、わたしが前に「いい建築家は、予算が少ないとかえって情熱を燃やす」などと口にしたことがあり、それを娘はしっかり覚えていて、この言葉をタテに取るのです。
わたしゃ言ったよ、言いましたよ、しかし、ものには限度ってものがあるだろ・・・。予算以上は出せないけど、妥協はしたくないのよ、と娘は言い張ります。見上げたもんだよコンコンチキってなものです。恐いもの知らずというか、ほんとにもう(怒)。
普通、建築家に仕事を依頼する場合、予算に余裕がないと大変なことになります。それは、わたし自身経験済みのことなので、何も余裕を置かない娘は暴挙に等しいと思ったのでした。
そういえば幼い頃、娘は童話をよく読み、その童話の世界がそのまま現実であるかのように錯覚する子だったことを思い出しました。到底ムリな話であるのに、まるで意に介さない性癖がそのまま残っているのでは・・・。それは多分に遺伝的なものがあり、ブーメランのように、こちらに戻って来る話でありますが。
敷地が狭く、予算も乏しい仕事を、殊に永田さんは好む人であるのが救いでした。少なくとも鼻であしらわれることはないだろうと・・・。建築費も、当初予算を守ってくれと言えば、それを律儀に守る人だと(口を酸っぱくして言っても守らない人が建築家には多いのです)・・・。
けれど永田さんは、たくさんの仕事を抱え、仕事が空くのを何年も待っている人もいるので、仮に請けて貰えたとしても、すぐに取り掛かれないのでは、と心配されました。わたしは、そういう永田さんに、ずいぶんムリを言って仕事を請けて来てもらっているので、娘の仕事となると遠慮が先に立ちます。
娘は電話で「いつから取り掛かれるのか」と五月蠅く聞いてきます。「ニワトリがタマゴを産むようには行かないんだよ」と返答しますが、矢の催促。そんな催促を察してか、永田さんは意外に早く仕事に取り掛かってくれました。娘に設計開始が近いことを電話で伝えたら、大喜びでした。わたしは「これはレアケースだよ」と言いましたが、「ハイハイ、お父さんは偉いのね」と言ってガチャリと電話を切ります。結婚するときもそうだったけど、失礼な奴だ、と思いましたね。
永田さんは、設計助手に徳田英和さんが付いてくれました。徳田さんは「地球のたまご」の設計に参加し、永田さんの仕事をよく心得た建築家です。人柄が穏やかで、切っ先鋭い娘と、温和なムコどのとのバランスをはかる上で、実にいい配役です。
永田さんの周辺には、若い建築家が寄っていて、この特集号の仕事の多くは、徳田さんや谷さんなど、若い人と組んだ仕事になっています。人を育てるのは、一緒に仕事をするのが一番です。
建築家に仕事を依頼するのは、どうも敷居が高いと思われがちですが、娘が大胆にやってのけたように、頼めば請けて貰えます。特に今、若い建築家は仕事がなくて困っていますので、みんなウエルカムですよ。

2階居間・食堂/通常は1階の床下に温風を送り込む方式のパッシブソーラーであるが、この住宅の場合は近隣が建て込んでいるため居間を2階に設けたので、2階に直吹のできるユニットを組み込んでいる。

2階居間・食堂/通常は1階の床下に温風を送り込む方式のパッシブソーラーであるが、この住宅の場合は近隣が建て込んでいるため居間を2階に設けたので、2階に直吹のできるユニットを組み込んでいる。

ソファーの背後には音楽が趣味のご主人のためのDJブース

ソファーの背後には音楽が趣味のご主人のためのDJブース

庭に面した1階寝室。向かいも隣家の庭であるため、落ち着きのある空間となっている

庭に面した1階寝室。向かいも隣家の庭であるため、落ち着きのある空間となっている

階段から台所・食堂を見通す/控えめに設けられた格子網戸は、白い壁のもたらす安心感を損なわずに、採光・通風の一助となる

階段から台所・食堂を見通す/控えめに設けられた格子網戸は、白い壁のもたらす安心感を損なわずに、採光・通風の一助となる

2階の居間・食堂に面したベランダ。下部に車を入れ、カーポートの屋根も兼ねている。ベランダから東方向をのぞむと、近隣の家並越しに公園の豊かな植栽が目に飛び込んでくる

2階の居間・食堂に面したベランダ。下部に車を入れ、カーポートの屋根も兼ねている。ベランダから東方向をのぞむと、近隣の家並越しに公園の豊かな植栽が目に飛び込んでくる

西面外観/各所に設けられた小窓がファサードに微笑ましい表情をつくる

西面外観/各所に設けられた小窓がファサードに微笑ましい表情をつくる

配置図
配置図

断面図
断面図

1階平面図
1階平面図

2階平面図
2階平面図

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もし引っ越すことになっても、もう一度この家を建てたい。

竣工しての娘の感想は、「正直、あの予算だとそれなりの家にしかならないと思っていたけど、出来上がってみたらこちらの要望は通ってるし、ちゃんと永田節になっているし、やっぱりスゴイね」と偉そうに言うではありませんか。どうして、こんな娘に育てたのだろうと思いましたね。
娘のことだから、設計の打ち合わせでは、要望は高く、お金はないというだろうな、と思っていました。そうしたら温和なムコどのまで、身の程知らずというか、オーディオルームが欲しいだの言いだしたというではありませんか。事後の話では、「永田さんは、無理な所は無理!と、ぶれない所もすごいと思った」と言います。「無謀なことを言ったら睨まれちゃったのを思い出すよ」とアッケラカンと振り返ります。ムコどのは、「もし区画整理とかで引っ越す事になっても、もう一度この設計で建てたい」と言ってるそうです。
こういうのを、建築家と建築主のいい出会いというのだと、改めて思ったのでした。
そういえば、今月末に娘に子どもが生まれます。根城を持ってよかったね。

建物の詳細は、雑誌を買って読んでください。

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