特集
雷—恐れ・信仰から予測の時代へ
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今日から春分の末候、「雷乃発声・かみなりすなわちこえをはっす」です。
七十二候では、このころから、秋分の初候までが雷の期間とされています。
雷は夏の季語ですが、春の雷は「春雷(しゅんらい)」といい、春の到来を伝えてくれる、めでたいものとされています。
昔から、「地震・雷・火事・親父」として、怖いものにもあげられている「雷」。
知っているようで意外と知らない、雷をとりあげます。
雷とは

ベンジャミン・フランクリン
雷が放電現象(電気)であることは、1752年にベンジャミン・フランクリンの実験により証明されました。雷の語源は「神鳴り」といわれており、かつては信仰の対象でした。自然現象であることがわかりましたが、「地震・雷~」に代表されるように、引き続き、恐れの対象となっています。
その轟音やまばゆい光によるところもさることながら、今でも落雷によって毎年死傷事故が発生し、火災の原因となることもあり、依然として恐ろしい自然災害であるといってよいでしょう。
機雷・地雷・魚雷といった轟音を伴って爆発する兵器に「雷」の文字が使われたり、ロシアの暴君・イヴァン4世の異名が「雷帝」と名付けられるなど、日本では「雷」は、恐ろしいものの代名詞ともいえます。
雷がおこる理由
雷は、どうして起こるのでしょうか。放電現象とは、ある2点間の電圧が、ある程度以上の大きさになると電気を通じるようになる現象です。落雷は、マイナス電荷の雲と、プラス電荷の地表の電圧差によって起こります。
では、どうして雲に電気がたまるのでしょうか。
落雷を起こす雲(雷雲)が発生する条件として、強い上昇気流があげられます。上昇気流によって空気中の水分が上空で冷やされ水滴となり、雲になります。雲がさらに空高くまで発達し、周囲が氷点下に達すると、雲の中には氷の粒ができます。
この氷の粒は、上昇しながら大きくなりますが、ある程度の大きさになると上昇気流が重力に負けて、下降をはじめます。このときに氷の粒同士がぶつかり、氷の粒の間で静電気が発生します。これを繰り返していくことで電気が強くなり、やがて放電(落雷)するのです。
夏の雷と、春の雷には、この上昇気流の発生方法に違いがあります。春の雷は、寒気と暖気がぶつかり合って発生する上昇気流によるもので、「界雷」といいます。
夏の雷に多いのは「熱雷」や「熱界雷」です。強い日射によってあたためられた空気によって上昇気流が起こります。こうして発生する雷を「熱雷」、熱雷と界雷をまぜたような原因で起こると「熱界雷」となります。
春の界雷は、寒気と暖気の境(前線)と一緒に移動し、ときに広範囲に雷を落とします。

雷神
雷は夏の季語ですが、稲妻は秋の季語です。夏から秋にかけての雷は、雨を伴い、農作物にとっては実りをもたらすものでした。落雷した田んぼでは稲がよく育つと考えられ、雷の光を稲の妻、稲妻とよぶようになったようです。
雷はかつては神の起こす現象(神鳴り)とされていました。雷神は有名ですが、他にも東北地方に見られる「ウンナン神」は、洪水のあとによく見られるウナギを神の使いと考えたところから名付けられた、湧水池や田んぼの近くの川などに祀られる水の神です。水の神であると同時に、雷の神でもあるといえ、落雷のあった田んぼにも祀られています。落雷と、それに伴っておこる雨は、恐怖であると同時に、実りをもたらすものとして崇められていたのでしょう。
雷のエネルギー
雷が電気であることがわかり、信仰の対象ではなくなっていきました。そうなると、人が考えるのは、雷を役立てられないか、ということです。
雷のエネルギーは、一回の落雷で12億ジュール程度といわれています。ワット換算でおよそ330Kwh。これは一般家庭の一ヶ月分の平均消費電力に匹敵します。

落雷一回分で、家庭一ヶ月分。多いような、少ないような…
家庭一ヶ月分のエネルギーが一瞬にして放電されますので、電流は数万~数十万アンペア(家庭用電力の契約容量は、10~60アンペア程度)、電圧は数億ボルト(家庭用電力は100ボルト)と、ケタ違いの値です。
このエネルギーを何かに使えたら、とも思いますが、太陽電池や風力発電と比較して、発生する場所やタイミングにバラツキがあり、現実的ではないようです。なんだかもったいない気もしますよね…。
雷は金属に落ちるわけではない?
金属を身につけていると雷が落ちやすく、ゴムなどの絶縁体があれば落ちても平気…こんな風に思っていませんか?
しかし、実際のところはだいぶ違うようです。
前述のように雷のエネルギーはとても大きく、人が身につけている金属程度で電界がゆがむことはありません。つまり、金属を身につけていようがなかろうが、ほとんど関係ないのです。
同様に、ゴム・プラスチックなどの絶縁体があるから安心、というのも誤解です。そもそも通常電気を通さない空気を通って落ちてくる雷ですので、多少の絶縁体などものともしないのです。
一方、昔からいわれていることでも「高いところに落ちる」というのは本当です。広場などで、他に高いものがなく、人が一番高い状況になってしまう場合は危険といえます。そういう場所で雷に遭遇したときには、姿勢を低くして、高い木や建物の中など、逃げこむところを探しましょう。ただし、高い木に近づきすぎるとかえって危険なので、数メートル離れておくことです。
雷の被害
古くは天智天皇9年(670年)、法隆寺が落雷による火災にあったことが日本書紀に記されています。雷は高いところに落ちる性質があるので、東寺の五重塔などの層塔は落雷被害を受けやすく、多くの層塔が落雷による火災にあいました。
今では避雷針で落雷の直撃を避けられるようになっていますが、過去には落雷・火災と再建が繰り返された寺社仏閣は数えきれないほどです。
現代の雷の被害は、物的被害などの一次被害に加え、機械の故障などによる操業停止などの二次被害も含めると、国内で年間1000億円から2000億円といわれています。
「地震・雷・火事・親父」のうち、地震・火事については建築基準法や消防法などで規定され、耐震化、防火・耐火が進んでいます(親父に関する法規制は…ないと思います、多分)。一方の雷は、高さ20メートル以上の建築物には避雷設備の設置が必要となりますが、通常の戸建住宅にはあてはまりません。ただし、雷の多い地域や、他に高い建物などがなく、家が一番高い場所になるような場合には、雷対策を検討したほうがよいでしょう。

サージつきUPS(無停電電源装置)
近隣の電柱などに落雷があった場合、停電したり、そこから発生する異常高電圧・電流(サージ)が電線や電話線を通じて、家庭の電話やネットの機器などをはじめとした家電の破損や誤動作の原因となります。市販されている雷サージ対応の電源タップやUPS(無停電電源装置)などをつけたり、分電盤に避雷器を取り付けるなどの対策があります。
火災保険には雷で保険金が支払われるものもありますので、雷で家電などに被害を受けた際は、保険の使用も検討しましょう。
また、落雷が原因の死傷事故も、毎年発生しています。数は多くはありませんが、落雷死傷事故被害者の5人に1人が亡くなっている点からみても、大きな事故になりがちです。
死傷事故は屋外で落雷にあうケースがほとんどです。雷の気配、可能性を感じたときは、すみやかに避難しましょう。
雷の予知・予報
大きな被害を出すこともある雷ですが、実は気象庁の警報には「雷注意報」までで、「雷警報」がありません。
注意報…災害が起こるおそれのあるとき
警報…重大な災害が起こるおそれのあるとき
また、警報・注意報には、それぞれ基準があります。例えば、びお編集部のある静岡県西部・遠州南では、暴風警報は陸上で20m/sの風速、強風注意報は陸上で12m/s、大雨警報・注意報は市町村ごとに別途数値基準が出されています。その他の警報・注意報でも数値基準が設定されているのですが、雷注意報は、「落雷などにより被害が予想される場合」としか定められていません。この基準は全国で同一です。
落雷は、その発生が一瞬であること、発生場所が限られることなどから、数値化が難しく、警報を出すことが難しいのです。
一方で、落雷は交通機関や電力関係などに大きな被害を出すこともあり、電力・通信会社などが気象庁由来ではない、独自の落雷の予知・予報の活動に取り組んでいます。
東京電力 雨量・雷観測情報
http://thunder.tepco.co.jp/北陸電力 発雷予報
http://www.rikuden.co.jp/hopes/menu.htmウェザーニュース 発雷指数
http://weathernews.jp/cww/docs/thunder/thunder_index.htmlウェザーニュース 雷Ch
http://weathernews.jp/thunder/
NTTも雷予測の事業化に着手し、昨年から今年にかけて実証実験を行いました。落雷の予測される地域にEメールで通知するなどの機能も実験されています。実験を踏まえ、サービスとして企業などに提供される見込みです。
また、気象庁でも2010年度より、積乱雲の観測と、空港に設置されている電磁波をとらえるアンテナを使った雷予報を開始する予定です。
今年、2010年は、雷予報が身近になるかもしれませんね。
参考文献
「おもしろサイエンス 雷の科学」 妹尾堅一郎監修・雷研究会編 日刊工業新聞社
「雷に魅せられて カミナリ博士、その謎を追う」 河﨑善一郎著 化学同人DOJIN選書
「日本の気象 海と山で役立つ気象の知識」 飯田睦治郎著 舵社
「日本の神々 多彩な民族神たち」 戸部民夫著 新紀元社






2011/6/8(水)09:07
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