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特集

転換期を迎えた日本の自動販売機

2010年1月15日 金曜日

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自動販売機の歴史

「ヘロンの聖水自動販売機の原理図・ラテン語版写本」イタリア国立図書館所蔵 日本自動販売機工業会より引用

「ヘロンの聖水自動販売機の原理図・ラテン語版写本」イタリア国立図書館所蔵 日本自動販売機工業会より引用

自動販売機は、近代文明を象徴するものだというイメージがありませんか?
しかしながら、その歴史は古く、今から2000年以上前、紀元前215年に、エジプト・アレクサンドリアの神殿に「聖水自動販売機」があったといわれています。
残念ながら現物は残っていませんが、アレクサンドリアの数学者・機械学者のヘロンの著である「気体装置」に、その原理が記されています。

硬貨を投入すると、その重みで受け皿が傾き、蓋が上がって聖水が出てくるという仕掛けです。
この装置が実在したのかどうかは諸説あり、アイデアだけだったのではないか、という説もあります。

ヘロンの聖水自動販売機以降、文献には自動販売機のようなものの記録が途絶え、次に記録があらわれるのは17世紀初頭のイギリスまで待たなければなりません。
本格的に自動販売機が普及しだすのは、19世紀のイギリスです。
いまでは「世界の工場」といえば中国ですが、19世紀当時は、世界で最初の産業革命を経たイギリスが、高い工業力を背景に、「世界の工場」として君臨していました。

こうした自販機の流れは、ヨーロッパ各国、そしてアメリカに渡っていきます。19世紀後半から20世紀にかけては、新しい自販機産業は、イギリスではなくアメリカから生まれるようになります。これは、世界の工業の中心が、イギリスからアメリカに移っていったことと無関係ではないでしょう。

実は斜陽? 日本の自動販売機

日本ではじめてつくられた自販機は、明治21年(1888年)につくらてたタバコの自動販売機です。1967年に、旧国鉄で電車の切符の自動販売機が導入され、以降日本にも自動販売機時代がやってきます。

下のグラフは、2000年から2008年までの、自販機の台数・売上の推移です。

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日本の自動販売機台数は、1984年に500万台を超え、多少の増減をしながら、ピークの2000年に560万台を超えました。その後減少に転じ、2008年末の時点で526万台、売上高はおよそ5兆7478億円となっています。
一方、グラフに記したコンビニエンスストアの売上は、2000年ごろこそ自動販売機と拮抗していましたが、その後両者に差が開き、2008年は顕著な差が出ています。

自動販売機とコンビニに、いったい何が起きたのでしょうか。

自動販売機の売上構成

自販機の売上構成の比較グラフを見れば、答えは一目瞭然です。

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「券類」は、乗車券、食券、入場券、貸靴券他
「その他」は、切手類、カミソリ・靴下・チリ紙他、新聞・雑誌、生理・産制用品、乾電池・玩具・カード・写真シール他
「自動サービス機」は、両替機、ビデオソフト・パチンコ玉・ゴルフボール貸機、コインロッカー・コインテレビ・パーキングメーター・駐車場精算機他

2007年と2008年を比較すると、どの項目も微減しているのですが、たばこだけは半減しています。

タスポの影響

たばこ自販機は成人認証カードtaspoがないと買えないようになりました。

たばこ自販機は成人認証カードtaspoがないと買えないようになりました。

2008年7月から、自動販売機でたばこを購入するには、成人識別カード「taspo(タスポ)」が必要になりました。未成年者が自動販売機でたばこを買うのを防ごうという取り組みです。

当初は発行手続きの煩雑さから普及が進まず、失敗論が支配的でした。
このため、自動販売機での購入を避け、コンビニでたばこを買う人が増えたのが、2008年の自販機・コンビニの売上に大きく差がついた要因といわれています。

taspo対応の自販機に変更するのにも費用がかかり、自販機中心のたばこ販売店は大ダメージを受け、廃業に追い込まれたところも多いといいます。

これがないと自販機でたばこが買えないtaspo。面倒だと言われていましたが、いつのまにか普及しているようです。

これがないと自販機でたばこが買えないtaspo。面倒だと言われていましたが、いつのまにか普及しているようです。

コンビニはtaspoがいらないため、自販機のシェアを大きく奪う結果になりました。

コンビニはtaspoがいらないため、自販機のシェアを大きく奪う結果になりました。

2009年1月のtaspo公式サイトによると、発行は1000万枚に近づいているとのことです。喫煙人口は2600万人という推計があり、また自動販売機でたばこを購入する人の割合とあわせて推計すると、自販機派の人にはかなりの割合でtaspoが普及しているといえます。2009年の結果はまだ公表されていませんが、taspoの普及が進んだ結果、果たしてどうなることでしょうか。

とはいえ、taspoの導入によって、深夜の自動販売機による販売自主規制(未成年者の購入防止)がなくなったので、これまで自販機で買っていた人にとっては、かえって購入の機会が増えているともいえますね。たばこ自販機の販売不振は、未成年者の購入がなくなったから、なのでしょうか…?

そもそも自販機は減っている

たばこは顕著ですが、それ以外の自販機の数自体、ここ数年で目減りしています。
かつてイギリスからアメリカに、そして日本に伝わってきた自動販売機の隆盛と衰退は、工業力、あるいは経済そのものの力を反映しているのでしょうか。

しかしながら、現在「世界の工場」となっている中国では、思いのほか自動販売機の普及が進んでいないようです。紙幣中心だからだとか、無人では盗まれてしまうからだとか、いろいろな説があります。今後の普及も、屋内に設置するタイプが主になるという見方があります。

いまのところ、日本は普及台数においてアメリカに次いで世界2位、人口ひとりあたりで言えば世界1位の自販機大国です。
国民24人に1台程度の自販機があるわけで、これは世界でも突出している数字です。これまでが異常で、これからは正常にもどるのかもしれません。

自販機減少の理由としては、taspoの導入にまつわる問題の他、

本物志向
不景気
大口客の減少
使い捨てへの抵抗
などがあげられます。

「本物志向」
コーヒーやお茶は、自販機の主戦場ともいえる商品です。しかしこれらは、つきつめるとどうしても缶やペットボトルでは味わえない、本物の味を求めることになり、自販機では太刀打ちできなくなります。
イギリスでそれほど自販機が普及しなかったのは、紅茶をちゃんといれる国だから、という話もあります。

日本の自販機の主役、缶コーヒー。「缶コーヒー」は、「珈琲」とは別の飲み物だ、なんていう人もいますが。

日本の自販機の主役、缶コーヒー。「缶コーヒー」は、「珈琲」とは別の飲み物だ、なんていう人もいますが。

「不景気」
ほとんどの自販機は定価販売です。500mlのペットボトルは150円が一般的。一方、安売り店で買えば、同じものが半額近い値段で買えることがあります。自販機はその手軽さで普及してきたと言えますが、財布の紐が固くなってきた今、手軽さよりも価格を優先する消費者も多いでしょう。
また、これに呼応するように安売り自販機も登場していますが、元来利益の幅がそれほど大きくない自販機では、他の商品の販売という相乗効果が見込めなければ苦しいのではないでしょうか。
また、自販機は一般的に設置している場所の持ち主が電気代を支払います。売上が減れば、売上マージンと電気代を相殺すると利益がでない、ということも起こります。これによって自販機を置くのをやめるケースも多く、自販機減スパイラルが起こっているのかもしれません。

「大口客の減少」
住宅の工事ではあまり見られませんが、中規模以上の建設工事や土木工事などでは、工事現場に必ずと行っていいほど自動販売機が設置されます。寒い冬、外で働く体には、自動販売機の温もりはありがたいものですよね。
公共工事の減少や、マンションの着工減などで、こうしたところに設置される自動販売機が減っています。

「使い捨てへの抵抗」
使い捨てはよくないし、費用もかかることから、自販機で飲み物を買うのをやめ、マイボトルを持ち歩く人も増えています。缶もペットボトルもリサイクルが行われてはいますが、そもそも使わない、という選択。

文明の利器・文化の破壊者?

自販機は、お客がいないときも通電しているため、環境負荷の槍玉にあげられることがあります。こうした声に配慮してか、あるいは設営者の電力コスト削減のためか、室内の自販機では、明かりを消して運用しているケースも見受けられます。
日本自動販売機工業会の「環境問題への取り組み」によると、1991年から2005年の15年間で、缶・ボトル飲料自販機の消費電力を半分にしたとのことです。

同会発表の缶・ボトル飲料自販機の1台あたりの年間消費電力量は、2008年度で1349kwh。これは一般的な家庭の消費電力の1/3近い数字です。カップ式や紙容器式になると、より高い値です。飲料の自販機台数は258万8200台。すべて缶・ボトル式としても、1349×2588200台=3,491,481,800kwh。桁が多いので漢字で書くと、34億9148万1800kwhです。

これは電気の無駄遣いだ!という声もあるでしょう。実際に無駄な自販機も多々あるでしょう。これは自販機だけにいえることではなく、深夜営業のコンビニエンスストアにも同じ批判があります。自販機は無人ですが、その向こう側には雇用や経営があるのです。一律に自販機を批判しても問題は解決されません。

省エネのため、明かりを消して営業中という看板。

省エネのため、明かりを消して営業中という看板。

考えるべきことは、「いつでもどこでも買える」、という、便利な生活が、本当に私たちにとってよいのか、ということです。コンビニエンスストアも自販機も、この点では同様です。

この両者にはゴミ箱が設置されていて、そのゴミ箱が家庭の持ちこみゴミでいっぱいになっていることをよく目にします。こうした「節操のなさ」は、自販機やコンビニが生み出したのか、それとも我々の節操がなくなっているからこそ、自販機がこれほどまでに普及したのか。いずれにしても、無自覚でいるべきではない課題のように思えます。

コンビニの中には、ゴミ箱を撤去することで持ち込みゴミを防止する動きもありますが…

コンビニの中には、ゴミ箱を撤去することで持ち込みゴミを防止する動きもありますが…

豊かさと自販機

ものが十分にあり、選択の幅があることは豊かさの象徴です。自販機は、そういう点では成長期の豊かな日本の象徴だったのかもしれません。しかし、今では自販機で様々な飲み物が買えることはあたりまえ過ぎて、それを豊かだと思う人は少ないでしょう。
逆に、従来型の自販機の利益モデルがくずれつつある今、自販機をつかって面白いことに取り組みだしたケースもあります。

静岡新聞
自販機でミニカー販売 たばこからの転換試行
http://www.shizushin.com/news/pol_eco/shizuoka/20100108000000000026.htm

静岡の自販機コーナーで、たばこ自販機を改造し、400円から800円のミニカーを販売しているそうです。このミニカーは、同じく静岡県で製造されているもの。静岡はプラモデルの生産がさかんなこともあり、プラモデルの販売も検討しているそうです。地域のPRという側面をもったこうした取り組みは、自販機の新しい姿といえるのかもしれません。

そういえば、昔の自販機には、「ワクワク感」がありました。
当たりつき自販機のルーレットを凝視しながらボタンを押したり、瓶が並んだ自販機で、自分の手でコーラを引き抜く快感もありました。
今は自販機にもポイントカードがあって、ポイントをためて何かがもらえたり、というものもありますが、それにときめかないのは、私が歳をとったのか、それとも豊かになりすぎたのか。いまでも子どもたちは自販機にワクワクしているのでしょうか。

いまやガシャポンも200円超時代。子どもたちは「せんとくん」にワクワクするのかな?

いまやガシャポンも200円超時代。子どもたちは「せんとくん」にワクワクするのかな?

台数が減少に転じた今こそ、「文化の破壊者」の汚名を返上するチャンスではないでしょうか。どこにでもある、から、あるべきところにだけあり、何でも売る、から、そこにしかないもの、そこにあることに納得できるものを。

これも自販機?

多摩動物公園には、チンパンジー用の自販機や空き缶回収機があります。チンパンジーの学習能力の実証や、飼育下の行動にさまざまな可能性をあたえる工夫として行っているものですが、実際にチンパンジーはコインを入れてジュースを買い、空き缶回収機まで利用しはじめたとのことです。

多摩動物公園
チンパンジー用自販機・空き缶回収機
http://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&link_num=51

チンパンジー「ミル」、“空き缶回収”に成功!
http://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&link_num=10232

チンパンジーの空き缶回収機、利用広がる!
http://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&link_num=12113

チンパンジーでも空き缶はきちんと捨てられます。みなさんは、大丈夫ですか?


参考
自動販売機の文化史(鷲巣力著 集英社新書)
日本自動販売機工業会 http://www.jvma.or.jp/
日本フランチャイズチェーン協会 http://jfa.jfa-fc.or.jp/


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  1. サヅカさんからのコメント

    2010/2/15(月)09:43

    田原飲料の伏見さん

    ご連絡ありがとうございます。
    新聞で読んだときから、面白いなあと思っておりました。浜松にも設置されたとのことですので、是非見に行きたいと思っています。
    (なお、該当の静岡新聞の記事は掲載が終了してリンクが切れていますがそのままにしてあります)

  2. ㈱田原飲料 さんからのコメント

    2010/2/15(月)08:49

    おはようございます。㈱田原飲料の伏見というものですが、たまたまネット検索していたところこちらに弊社のたばこ自販機転換試行の記事が取り上げられていたので御礼かたがたコメントさせていただいた次第です。弊社は、清涼飲料水自販機の管理会社ですが、記事にもありますが自動販売機の売上がコンビニの参入を期に年々厳しくたばこについてもタスポの導入に伴って売上は激減し負の相乗効果によって清涼水自販機の売上も減少し昨今の不況の影響と厳しさを増すばかり・・・今回新たなベンダービジネスということで1号機を藤枝エリアに設置したのですが、目新しさもあって設置後も順調に売上を伸ばしています。2/10には、浜松エリアの一般エンドユーザー様からの要望から弊社浜松営業所前に2号機としてこのホビー機を設置いたしましたので御報告いたします。奇遇にも事務局様の所在が、浜松ということでしたのでこれも何かのご縁かと思います。ありがとうございました。以上

  3. サヅカさんからのコメント

    2010/1/18(月)09:44

    たかさん

    コメントありがとうございます。
    こうした状態に対して、メーカーや流通は、「消費者が望んだ結果」というんですよね。私は消費者として、「自販機がほしい、コンビニがほしい」と明確な意思表現をしたつもりはありませんが、利用することによって存在を肯定(ところか、支持)したことになるのですね。

    スゴい愛煙家で、絶対に自販機を使わないという人もいます。手持ちのたばこがきれて辛くても、自販機では断じて買わないそうです。これは明確にNoという意思表示ですね。

  4. たかさんさんからのコメント

    2010/1/18(月)09:20

    とても「オモシロイ」とおもいました、この特集。
    たしかに、「便利さ」にならされている「暮らし」があるとおもいます。
    ここでも、記事の写真にありました「コンビニ(○○ホールディングス)」が、
    とてもつよく、「街道筋」には、必ずといっていいほどあります。
    なかでも、「大型車両」もよれる駐車場のあるものは、高速道路さなが
    らの「SA」にもみえます。
    むかし(40年前くらい)は、「自販機」にせよ「ガチャポン」にせよ、
    とても輝いて見えていた「機械(マシン)」でしたが、いまは時代もか
    わり「とても忙しく暮らす」生活がこのようなものを「ときの産物」と
    してつくりだしてしまったのかもしれませんね。
    そういった暮らし方をもう一度考えなおすためにも、この特集はとても
    参考になります。

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