特集

もうひとつの「成長戦略」!! 首相官邸での「成長戦略説明会」に参加しました。

説明者:町の工務店ネット(代表/小池一三)
2009年12月30日 水曜日

成長戦略説明会での、町の工務店ネットの展示

成長戦略説明会での、町の工務店ネットの展示

全体の様子

全体の様子

行ってきましたよ、政府の中枢、首相官邸に!!

2009年12月30日の11:30~12:30に掛けて、首相官邸にて政府の「成長戦略説明会」が開かれ、参加しました。

セッティングの最中。

セッティングの最中。ギリギリのスケジュールでパネルが間に合いました。

前日に展示物のセッティングがあり、事務所の4人がレンタカーで運びこみました。建物を背景に記念写真していて警備の人に咎められたり、例の閣僚の「雛壇」撮影の階段で写真を撮ったり(こちらは咎められませんでした)、結構ミーハーしてきました。

テレビ報道でご覧になられたと思いますが、IRT(ITとRobot Technologyの融合技術/東大、トヨタ、富士通、オリンパスなどによる)や、H-IIBロケット、iPS細胞、藻類バイオマス、ナノテク・光メモリなどの先端技術がホワイエに展示され、鳩山総理をはじめ全閣僚がそれを見聞し、それをたくさんの報道陣が追うというものでした。因みに、町の工務店ネットのお隣はホンダの2足歩行ロボット・アシモでした。

中央が町の工務店ネットの展示。奥には鳩山首相と握手をしたアシモ。

中央が町の工務店ネットの展示。奥には鳩山首相と握手をしたアシモ。

数々の先端技術の展示に対して、こちらはベーシックな住宅の断熱化がテーマ。
国家戦略室の要望は、住宅の壁体カットモデルでした。「えっ、何、カットモデル?!」・・・。壁体カットモデルなんて、断片に過ぎないし、地味だし、見栄えがしないし、モデルハウスに行けば見掛けるものであるけれど、即物的にそれだけ見せられても、まるで象の脚だけを見せられるようなもので、たいがいの人は何がなんだか分からないし、さてさてどうしたものかと頭を痛めました。

正式に依頼があったのは25日の朝でした。発表は暮れもどん詰まりの30日。
前日に搬入となると、与えられた時間は実質3日半しかありません。しかも、予算なしというではありませんか。こちらは大手メーカーではないので、そんな予備費があるわけではなし、「象の脚」を出したところで笑われるだけだし、というわけで降りたいと一瞬思いましたが、要請された以上、お応えしなければ町の工務店ネットの名がすたります。

先ず「成長戦略」とは何なのか、ということですね。

ロボットやロケットなどの「未来イメージ」を提示するのは分かるけど、果たしてそこに市民が「成長戦略」を見るかどうか。その企業の社員と周辺企業にとっては希望ですが、一般市民にとっては遠い話です。不況に喘ぎ、今年も派遣村が設けられている現実の方が重くて、「花より団子」を欲しているのが一般市民の偽らぬ気持ちです。

というわけで、先端技術と並んで、「もうひとつの成長戦略」があるのではないか、そういうものとして提案できたらいいのでは、と考えました。住宅の断熱化を取り上げたい、という菅副総理の思いもそこにあるのでは、と勝手に解釈して、あとで述べる内容で提案したのでした。

これは比較で述べるしか説明がつかない、と考えました。となると、まず資料集めです。あちらこちらに問い合わせたものの、ピンと来るものがありませんでした。こういうときは、勝手知ったる友人ということで、EOM(浜松市東区上新屋町)の荏原幸久さんに相談したところ、ここ30年の省エネ基準変遷史はどうか? と提案してくれました。「それ、それ。それで行きましょう!」ということになって、彼はその作業に忙殺されるようになります。計算をしっかりやらないといけないし、時間はあまりに乏しいからです。

荏原さんは寝食を忘れて取り組んでくれました。ざらっと計算結果を見て「これで行ける!」と確信を持ちました。それはこの30年間に、日本の壁の中で起こったことを見事に表していました。省エネ率が向上し、CO2の削減の大きな変化が数値で、ハッキリと示されていました。その飛躍的な変化というだけでなく、それによって日本の住宅空間とその居住性が劇的に変化した背景を、それは教えてくれました。

その展示物には、大きな空間を示す写真をタイトルバックに使うことにし、最近、大分で撮った趙海光さん設計による「府内町家」(施工/日本ハウジング)の写真を用いることにしました。こういう吹き抜け大空間は、昔は寒いものとされましたが、断熱・気密化技術によって、小さなエネルギーで寒くなくなりました。

この省エネ30年の変遷を見ていて気づいたのは、日本に初めて省エネ基準が公示された1980年以前の住宅のことでした。今尚、日本の全住宅戸数の40%以上が、無断熱住宅です。「成長戦略」の重要施策とされる太陽光発電を導入しても、肝心の建物が「ザル住宅」では、折角得られたエネルギーをみすみす捨てているようなものです。この40%以上を占める膨大な無断熱住宅の改修・改築を行えば、日本政府が掲げるCO2 25%削減の基盤をカタチづけることになります。

断熱改修を行うには、床・壁・天井を剥がさなければなりません。ということは、同時に耐震工事を行うべきというわけで、本文に述べたような内容をまとめたのです。

もし、日本の全住宅戸数の40%以上を対象に、国民的な改修・改築運動が起これば、住宅は裾野が広いので、景気回復の有力な柱になります。それは、先端技術と並ぶ「もうひとつの成長戦略」となります。窓口になっている国家戦略室のメンバーには、「それこそ菅副総理の見識を示すことになるのでは」と申し上げました。

EOM設計・入政建築制作のカットサンプル。きついスケジュールでのご協力ありがとうございました。

EOM設計・入政建築制作のカットサンプル。きついスケジュールでのご協力ありがとうございました。

この省エネ基準の変遷をグラフで示すと共に、その壁体・開口部カットモデルを示そうということになり、壁体カットモデルについては、やはりEOMの駒野清治さんに設計してもらい、施工は入政建築の新野達治社長にお願いしました。新野さんは、急いで材料を調達し、休みに入る大工さんに来てもらって制作してくれました。感謝感謝です。窓のカットモデルは手に負えないので国交省にお願いしてメーカーから既成品を調達してもらいました。

カットモデルの依頼から始まり、そこまで話を高め、手繰り寄せたのでした。

町の工務店ネットが考える、もうひとつの成長戦略とは

大分・府内町家(設計/趙海光 施工/日本ハウジング)

大分・府内町家(設計/趙海光 施工/日本ハウジング)

下に、日本に最初に「省エネルギー基準」が制定された1980年以前の建物、以後の建物、1992年の「新省エネルギー基準」、1999年の「次世代省エネルギー基準」、それから町の工務店ネットが想定した「将来・省エネルギー基準」の5種類のグラフと、エネルギー消費量(灯油缶換算)と、CO2排出量の変化などについてまとめました。

この図を見ると、建物の熱損失量が大幅に減り、それによってエネルギー消費量が大幅に削減されたことが分かります。しかしそれは、省エネ率がアップしたというだけでなく、住宅そのものの居住性能と居住空間が劇的に変化したことに大きなメリットがあります。

ここに掲載した写真は、最近、小さな町の工務店によって大分市に建てられたモデルハウスです。
広々とした吹き抜けのリビングが印象的な建物です。吹き抜け空間は、エネルギーを食うものと考えられ、建築家の設計にこそ見られたものの、工務店の設計ではご法度にされてきました。大分のモデルハウスは、断熱技術の進化による変化のカタチが如実です。
この建物は、密度の高い断熱材で、建物がすっぽりと包まれています。熱が一番逃げやすい開口部にはペアガラスを用いられています。つまり、この住宅は小さなエネルギーで開放的な空間を実現しているのです。冬の暖房だけでなく、夏にも快適な住宅です。少ない冷房量で涼しく過ごせますし、大きな空間なので風が通りやすく、冷房なしでも過ごせます。

省エネは、節約・ガマンすることだと思っている人が少なくありません。断熱化は、地球環境に負荷を掛けないで住宅の居住性能を向上させる技術であり、この視点に立って、広く普及をはかることが肝要なことと考えます。

省エネ基準の変遷

クリックで拡大します。

●エネルギー消費量(灯油換算) & CO2排出量
無断熱 Q=876(W/℃)*(20-10)(℃)*6(時間)*0.5(部分)*30(日)=788(kW/月)
L=788(kW)/1.0349(kW/L)=761(リットル)18㍑灯油缶42.3缶 ドラム缶3.8本
CO2=761(リットル/月)*2.53(kgCO2/L)=1925(kgCO2/月)
旧省エネ Q=408(W/℃)*(20-10)(℃)*6(時間)*0.5(部分)*30(日)=367(kW/月)
L=367(kW)/1.0349(kW/L)=380(リットル)18㍑灯油缶21.1缶 ドラム缶1.9本
CO2=380(リットル/月)*2.53(kgCO2/L)=961(kgCO2/月)
新省エネ Q=289(W/℃)*(20-10)(℃)*6(時間)*0.5(部分)*30(日)=260(kW/月)
L=260(kW)/1.0349(kW/L)=251(リットル)18㍑灯油缶13.9缶 ドラム缶1.3本
CO2=251(リットル/月)*2.53(kgCO2/L)=635(kgCO2/月)
次世代 Q=197(W/℃)*(20-10)(℃)*6(時間)*0.5(部分)*30(日)=177(kW/月)
L=177(kW)/1.0349(kW/L)=171(リットル)18㍑灯油缶9.5缶 ドラム缶0.9本
CO2=171(リットル/月)*2.53(kgCO2/L)=433(kgCO2/月)
将来基準? Q=144(W/℃)*(20-10)(℃)*6(時間)*0.5(部分)*30(日)=130(kW/月)
L=130(kW)/1.0349(kW/L)=125(リットル)18㍑灯油缶7.0缶 ドラム缶0.6本
CO2=125(リットル/月)*2.53(kgCO2/L)=316(kgCO2/月)
※ドラム缶は200リットルです。

【計算方法】前提条件
地域区分 Ⅳ地域(旧基準ではⅢ地域)で、東京や大阪を含みます。
室温20℃一定、日平均外気温10℃(5〜15℃)、暖房時間6時間、暖房床面積1/2の間歇部分暖房とし、住宅の総熱損失量(W/℃)から概略を求めています。
換気回数は無断熱、旧省エネ時代に建てられたものは気密化の基準がなく、実態としては、在来軸組みでは1回程度の換気回数がありましたが、今回の計算では最低必要換気量(0.5回)で全て一定としました。
灯油の換算係数として
発熱量 8900(kcal/L) または 10340(W/L)
CO2排出量 2.53(kgCO2/L) または 0.245(kgCO2/kW)
図中、無断熱の住宅ですと室内温度を1℃暖める場合には、1時間当たり876(W)の熱が必要であることを意味します。
室温が20℃,暖房時の平均外気温が10℃だとすると、Q=876*(20-10)=8.76(kW)
1日、6時間、1/2面積の間歇部分暖房では、8.76*6*0.5=26.28(kW/日)
1ヶ月の暖房熱量は、26.28*30=788(kW/月)となります。
灯油換算では、788/1.034=761(リットル/月) 18㍑灯油缶で42.3缶 ドラム缶で3.8本です。
CO2排出量は、761*2.53=1925(kgCO2/月)
※計算は、EOM株式会社(浜松市) 担当/荏原幸久・駒野清治によります。

壁体カットサンプル

クリックで拡大します。

【既存住宅の不適格問題と、その改修・改築】

現在、長期優良住宅の性能要件となっている「次世代省エネルギー基準」は、制定されて10年になります。トップランナー技術として年々進化を遂げていますが、もう特別な技術ではなくなりました。

しかし、エネルギーロスが大きい1980年の「省エネ基準」以前の住宅が、今尚、全住宅戸数の約40%以上を占めていることを考慮すると、日本政府が命題とするCO2を25%削減する上で、また居住性能を向上させる上で、断熱不足の住宅改修は急務の課題と言えます。

しかし、断熱改修するには床・壁・天井を剥がさなければならず、大規模改築になります。また、壁を剥がすなら一緒に耐震改修を考えたいところです。

兵庫県南部地震による死者は6,434名を数えました。この80%相当、約5000人は老朽家屋の下敷きによって亡くなりました。地震対策上、問題ありとされるのは、「省エネ基準」の翌年に施行された「改正建築基準法」以前の住宅です。もし2000年の建築基準法改正に基づく耐震基準で建築されていれば、この死者は1/10で済んだといわれます。今後30年以内に確実に起こるといわれる大地震に対する“防災都市”の見地からも、耐震改修は断熱改修と並んで最重要視されるべきテーマです。

このようにみると、既存住宅の不適格問題は、耐震・断熱、あるいは建物劣化などとリンクしていることが分ります。単なる“お化粧直し” のリフォームではなく、現行基準に照らして不適格とされる既存住宅の改修・改築が、今、早急に求められているのです。

現内閣が、電気自動車・ロボットなどの先端技術と並んで、基盤技術である建物の断熱・気密化を「成長戦略」の環の中に位置づけたのは、この点でよい着目であり、見識を示すものと評価されます。来年度の国交省の予算にも、その支援策が幾つか盛り込まれています。

けれども、これを大きな流れにするためには、建物の検査・診断、資産評価の制度化が必要であり、改築工事に対する長期住宅ローンの仕組みがつくられなければなりません。現況、建物の資産評価は20年でゼロという状態であり、ゼロのものをいくら改築しても、保険も、保証も付けられず、金融機関は大規模改築の建築費に見合った長期住宅ローンをつけません。

住宅建設は裾野が広く、一旦動き出したら、その波及効果は大きく景気を押し上げますので、障碍となっている問題を解明し、それを克服する方策を一日も早く講じる必要があります。

改修・改築のためには、建物の床・壁・天井を剥がさなければなりません。ということは、内装も一新されるということです。内装材は、新建材ではなく、国産材が多く使用されることになるでしょう。現在の林業が“切り捨て間伐”を余儀なくされているのは、その用途が限られ、コストが見合わないからです。もしこの改修・改築が大きな流れとなるなら、構造材だけでなく「羽柄材」が大量に利用されることになり、間伐材の「出口」に道を開くことになります。

それによって“山”は潤い、雇用は拡大します。そして、不況に喘ぐ町場の工務店は息を吹き返し、広く仕事が行きわたります。住宅を改修・改築して、もし子や孫と一緒に過ごせるなら、おじいちゃん・おばあちゃんはタンスに眠っているお金を出してくれるでしょう。“生きた経済”の復活です。

我々は小さなネットワークですが、そのような視点に立って、今回の「成長戦略」説明会に臨みました。我々の背景には何万という町の工務店がひかえています。

森林

上の写真の建物は、このような高密度に作業道が整備された明るいスギ林の材を用いて建てられます。
鉱物や化石は、掘り出せばやがて枯渇しますが、人工林は、きちんと更新がなされるなら、繰り返し再生し、持続可能な資源となります。木をふんだんに用いた家は環境にも貢献できるのです。山をよく手入れし、明るい森をつくる仕事は、この国の重要な成長戦略の一つといえるでしょう。
この森は、大分県臼杵の林業家 後藤國利さんによって育てられている森です。

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