興味津々

倉敷の町を歩くー希有なバランスを保つ町—

小野寺光子(「びお」編集委員)
2009年11月07日 土曜日
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倉敷の町を歩く

イラスト:小野寺光子 クリックで拡大します

10月中旬、岡山県倉敷市の美観地区のギャラリー二軒をお借りして、イラストの個展を開きました。東京都下在住の私が、どうして倉敷で?と、多くの人に尋ねられましたが、確かに。ふとしたきっかけで、今年の2月に初めて倉敷を訪れ、「この町を描きたい、それをこの町で展示したい」と思うほど気に入ってしまったのです。

倉敷といえば、江戸・明治の頃からの白壁の商家の並ぶ倉敷川沿いの風景や大原美術館が、観光地としてあまりに有名です。散策するのにもちょうどよい、こぢんまりした町です。「美観地区」というだけあって、完璧なまでに整えられていますが、テーマパークのような空しさはありません。景観を形作っている建物も、飾りではなく美術館、銀行、商店として今も機能しています。文化面では、工芸がこの地に根付いているのも魅力の一つ。民藝をはじめ、若手のクラフト作家も多く育っています。町を挙げての工芸のイベントや展示もさかんに行われています。

イラストに描いたのは夜の「本町通り」です。この通りは倉敷川河畔から一歩町並みの奥に入ったところにあります。鶴形山のすそに沿ってカーブを描く街道に、町家が軒を連ねています。日本の昔話の世界に迷い込んだように思えます。老舗旅館や造り酒屋、畳屋、表具屋なども現役で営業中。絵地図に描きやすそうな町並みです。

このあたりの閉店時間は5時過ぎのところも多く、夜7時には大半が閉まってしまいます。夕餉の匂いの漂う家、子供の声が聞こえてくる家。この時間帯、通りは『仕事の時間』から『夕飯の時間』になっていたのでした。喫茶店に入りたかったけれど、営業中の飲食店は居酒屋くらい。ブラブラと歩き続けるしかありませんでした。居酒屋からは常連らしき人たちの語り合う声がこぼれてきて、楽しげです。もう少し進んだら、どこからともなくジャズが聞こえてきました。ライブ演奏をやっているようでした。

こうした生活の匂いこそが、倉敷の「本物」らしさをしっかりと裏打ちしているように見えました。

町歩きをしていると、ちょくちょく地元の方から町の話を伺います。「ポスト一つ付け変えるのにも細かい規制があり、景観を崩さないために市の許可が必要。みんな大変」なのだそう。とはいえ、その大変さも誇りに思っていること。

倉敷にも当然のことながら、頭を悩ませる問題が多々あるということ。例えば「高齢化などで維持できなくなった店や、空き家をどうしたらいいか。倉敷に根拠のないチェーン店でいつの間にか埋まって、あっという間に町が変わってしまう可能性もある」んだそうです。そこで、使われなくなった町家を再生するNPOの活動もあります。「美観地区はかろうじて活気があるけれど、町全体となると難しい。美観地区だっていっぱいいっぱい」という話も。古い町並みを「維持」するにも、人間の体同様、常に古い細胞を新しい細胞に置き換える新陳代謝があってはじめて保ち続けられるのでしょう。

幸いこの町には、「倉敷にもともとあるよいもの」を、地元にも、全国に向けても発信していこうという人たちがいて、活動も活発です。これは心強いことだと思いました。他の街の真似をしたり、流行を取り入れたとしても、所詮本家本元がよいのに決まっています。

家具デザイナーのMさんが「倉敷の町は、人が暮らすのにちょうどいいサイズなんですよ。これ以上大きい必要も小さい必要もない。人間のサイズなんです」と言っていました。まさに、私も同感。人間の暮らしのサイズで、観光と文化と暮らしが健やかにバランス保っている、めずらしい町だという気がします。

ONE DAY
http://oneday55.exblog.jp/

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