特集
カナダ・ハリファックス周辺を巡る旅
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対談 永田昌民(建築家)×小池一三(住まいネット新聞びお編集長)

単純で小さな切妻屋根の木造の倉庫や家が並ぶPictou港(Pictou)
- 永田
- ノバスコシアに行ってきました。
- 小池
- 19年振りだそうですね。もう一度、ノバスコシアのハリファックスに行ってみたいと、何回聞いたことか。初恋の女性に逢いたいというような、そんな感じを受けました。
- 永田
- そう?(苦笑い)。ハリファックスの小さな漁村、Peggy’s Cove(ペキーズ・コーブ)は、小さな家々が、湖沼、入り江の中に点在していて、ほんとに幻想を見ているような村でね。
- 小池
- 南米チリの果てにあるプンタアレーナスの郊外の家もそんなふうで、あそこの場合は、マラッカ海峡から吹いてくるつよい風に、ひしゃげそうになりながら負けないで建っているのが印象的でした。日本の家は“うさぎ小屋”とか言われているけど、世界にはもっと小さいのがあるじゃないかと。
- 永田
- とにかく小さいんだよ。
どうやって生活しているのか、覗いてみたいと思ったね。 - 小池
- 『ガリバー旅行記』ではないけど、人が大きくみえますね。
- 永田
- リビングはどうなっているのか、キッチンは、寝室は、お風呂はどうなのか。そこでどんなふうに暮らしているのか? スケールということを、改めて考えさせられました。
- 小池
- ディテールに及ぶ根源的な問いかけがあったのですね。
- 永田
- そんな大げさなものじゃなくて、単純に、ただみたかっただけだよ(笑い)。
奥村昭雄のスケッチ
- 小池
- 前に行かれたときは、パッシブソーラーの国際会議の時でしたね。あのとき、ぼくはトロントで仕事があって、モントリオールで待っていました。会うなり、奥村さんとお二人揃って、ハリファックスがよかったよかった、というものだから羨ましくて(笑い)。
- 永田
- 二人して会議を抜けだして、ハリファックスの街をうろうろしてね。会議そっちのけで町を歩いて見て回りました(笑い)。そのうち、郊外にいい村があると聞いて、ペキーズ・コーブに足を延ばしたんだ。
- 小池
- 周囲にこんなにいいところがあるのに、会議場にいる方が不健全だよ、というのが奥村さんの言い分でした。会議に派遣した側としては、かなり複雑な気持ちでしたが(笑い)。
- 永田
- ああいうときの奥村さんの言い分は、どっちが正しいのか分からなくなるほど、ふるってるよね。
- 小池
- でもそそのかした犯人は永田さんでしょ。
- 永田
- 教唆の罪は、ぼくかな(笑い)。
- 小池
- 明らかにそうです(笑い)。奥村さんは、ハリファックスのスケッチを2枚残されています。「海岸線は深く切れ込んで、おとぎの国のような漁村がある」なんてメモしていて、会議そっちのけもいいとこですね(笑い)。人口120人の美しい小さな海辺の村だそうですね。
- 永田
- 目を閉じると、あの小さな村の光景が浮かんでサ。
- 小池
- まるで長谷川伸の『瞼の母』ですね。「じっと瞼を合わせると・・・」という(笑い)。で、19年ぶりのペキーズ・コーブはどうでしたか?

イギリスの古い様式が残るPictouの街(Pictou)

レンガ造、石造の街並と教会(Pictou)

プリンスエドワード島の中心部に位置する街、Charlotte townの夜明(Charlotte town)
変わらないことの大切さ

引潮時のPeggy's Coveの漁港(Peggy's Cove)
- 永田
- それがね、ほとんど何も変っていないんだ。19年前と同じ。
- 小池
- それはいい話ですね。日本の町は、駅前再開発などで変化していて、駅舎も違えば、道路も拡幅され、商店も建て直されて大きく変ってますからね。新しい店舗だというのに、もうシャッターが閉じられた通りもありますし。
- 永田
- 彼我の違いはハッキリしているね。
- 小池
- ペキーズ・コーブは景観地区だいうこともあるけど、たとえば木曽の妻籠にしても、白川郷にしても、お土産物屋やそば屋などが軒(のき)を連ねていて、日本の歴史的景観地区は酷いものです。

うすく霧のかかりはじめた漁港からの風景(Peggy's Cove)

Halifax湾の入口に位置する灯台のある小島(Halifax)
- 永田
- かと思うと映画村のセット見たいなことになってね。ペキーズ・コーブがいいのは、そこにカナダ人の普通の生活があることです。肩肘張らないで、ただの日常がそこにある。そこがいいんです。ペキーズ・コーブの家々はパステルカラーできれいなんだけど、もとは海からの風から家を守るためにペンキが塗られて、隣が緑色ならこちらは青や黄色というふうに塗られていったと思うんだ。沖に出た漁師にとっては、わが家の目印になる色でもあって。
- 小池
- 自然なんですね、それが。日本の団地で、時折どぎつい色を塗った家があるけど、あれは不自然のキワミで、この違いは何なんでしょうね?
- 永田
- 用の美なんです、ペキーズ・コーブのそれは。
- 小池
- 生活から浮いていないと?
- 永田
- そう。それでいて、灯台は夏になると郵便局に早変わりして、ここから手紙を出すと、灯台の消印を押してくれるなんて、洒落たことをやるんだよね。
- 小池
- それ、いいですね。
ハリファックスの大爆発
- 小池
- ハリファックスといえば、「ハリファックスの大爆発」が有名ですね。
- 永田
- 90年ほど前に軍用火薬を積んだ貨物船が衝突して火薬が大爆発し、2000人が死亡し、爆発地点近辺の2キロ四方が完全に破壊されたという、あの事故ね。
- 小池
- そのときボストン市民が救済に駆けつけてくれて、そのお礼ということで、今でもクリスマスになると大きなツリーがボストンに贈られているそうですね。
- 永田
- そういう話はいいね。

爆発直後のHalifax市街(Wikipediaより)
- 小池
- タイタニック号が沈没したのもハリファックス沖で、亡くなった人のお墓があるそうで。
- 永田
- フェアビュー墓地ね。けど小池さん、余分なことよく知っているね。
- 小池
- それは下調べして臨んでいますから(笑い)。ハリファックスの大爆発では「最初の船の火災の時ベンゾールのドラム缶が小爆発して火を吹きながら空中を高く飛ぶのを多くの住民が家の中から窓越しに見物していて、200名が窓ガラスの破片で両眼失明した」という記録があります。
- 永田
- 被害が大きくなったのは反射波によることが分かって、この爆発事故を調査した結果、原子爆弾を上空で爆発させて破壊力を大きくしたっていいますね。
- 小池
- さすが、現地を踏んだ人は詳しい(笑い)。
- 永田
- こちらも帰国してから、興味を持って調べたんだけど(笑い)。
- 小池
- ハリファックスは不凍港で、フランス、イギリスへ最短距離の位置にあって、アメリカの軍需物資輸送船は、ここに集結して、ドイツ潜水艦対策のため船団を組んで大西洋を渡ったそうですね。
ハリファックスの断頭台

復元されたHalifax断頭台 (C)Scarletharlot69
- 永田
- ハリファックスは18世紀半ばにイギリス軍がここに軍事拠点を置いたことに始まるといわれるけど、その前からヨーロッパから流されて、ここに辿りついた人がたくさんいたと思うのよ。イギリスの東インドや南アフリカ会社は19世紀です。その前史は、このあたりから始まっているんだね。
- 小池
- ヨーロッパから一番近い場所ですからね。最初に大挙してやってきたのはフランス人で、イギリスに攻撃されてフランス植民地の根拠地はケベックに移されます。ハリファックスの歴史は、15世紀に始まるようです。ハリファックスは、最初は12家族だけの寒村でした。
- 永田
- 羊毛業が盛んになって、このあたりは水資源が豊富なんで、注目の土地だったようです。ヨーロッパで食べられない人が続々と海を渡ってきたわけだから、犯罪が頻繁に発生して、治安は悪かったんだろうね。
- 小池
- webで検索していたら、おもしろいブログがあって、ハリファックスは悪党にとって、最も震え上がる恐い街だったということが延々と書かれていました。ハリファックスは、ハルより恐い街だというジョン・テーラーの詩が紹介されているというのです。ハルというのは、完璧な治安を誇ったイングランド北東部の町の名です。物乞いや浮浪者に対して、無慈悲な仕置きで知られた街です。ハリファックスは、そこより恐いと詩に書かれているというのです。ジョン・テーラーの詩は、こんなふうに綴られています。
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ハリファックスの法は容赦をしらず
13ペンス以上を盗んだ者はひとり残らず
精確無比のすごい機械にかけられて
天国なり地獄なり首をなくして送られる - 永田
- 断頭台だね。
- 小池
- このブログは、その断頭台について微に入り細に入って書かれています。滑車の仕組みとか・・・。それまで刀剣で斬首していたわけだけど、それでは追いつかず、断頭台は効率がよく、犯罪人も苦しまなくて済みました。一大技術革新だったと。
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ハリファックス断頭台
http://www.ff.iij4u.or.jp/~yeelen/system/law/halifax.htm

Halifax湾周辺に残された歴史的資産の街並(Halifax)

歴史的資産のひとつにあたる石造の建物(Halifax)
- 永田
- ヨーロッパの古い街に行くと、拷問博物館なんてのがよくあるけど、ああいうのヨーロッパ人は好きだね。
- 小池
- 断頭台を奨めたのは、修道士で、直接手を下さなくてもいいようにこの機械を勧めてくれたといいます。フランスのギロチンに似ているけど、ギロチンよりも昔のもので、ギロチンはハリファックス断頭台を真似たそうです。
- 永田
- 内臓抉りや八つ裂きの刑など身の毛もよだつやり方に比べれば、断頭台は慈悲に富んでいるというわけね。
- 小池
- スペインのアルタミラ洞窟の近くに、スペイン人が選んだ最も美しいといわれる村があって、その村のパラドール(貴族の邸宅をリノベーションしたホテル)に泊まったことがあります。サンティリャーナ・デル・マルという街です。中世そのままの石畳と石の家が連なる街で、街を散策していて心が洗われました。
- 永田
- その街に拷問博物館があったというんだろ?
- 小池
- ご明答! 焦りましたよ。血塗られた歴史犯罪が、この街にあったことを知って、それはショックでしたが、アンアンノンノンの旅と違って、ちゃんと歴史を伝えようとしていると思いました。
- 永田
- ナチスの収容所もそうだけど、暗黒史を博物館にして残しているのは偉いと思うね。
- 小池
- 世界を旅して感じるのは、日本という国がよく分かるということですかね。
- 永田
- そうだね。
マホーンベイとルーネンバーグ

湖に見まちがえそうな入江の漁港と街並(Mahone Bay)

3つの教会が建ち並ぶうちの単純で小さな白い教会(Mahone Bay)

静かな小さな街並の電柱に吊られた漁港ならではのお飾り(Lunen Burg)
- 小池
- この旅を終えて、もういいですかハリファックスは?
- 永田
- 今回は足を延ばしてマホーンベイまで行ったんだ。足を延ばしたといっても、ハリファックス市内からは車で1時間位だけど。
- 小池
- ノバ・スコシア州は、カナダの中でも日本人には馴染みが薄い地域ですが、L・M・モンゴメリの『赤毛のアン』のプリンスエドワード島は多いようですよ。
- 永田
- 『赤毛のアン』の恰好してくる日本人がいるって聞くよ。
- 小池
- なんですかね、あれは?
- 永田
- マホーンベイはゲルマン系の町で、あそこは錫の産地だったそうです。周囲に365もの島々が点在しているというから、まだまだ行くところは山ほどあります。今回は、ルーネンバーグまで足を延ばしました。こっちはプロテスタントの町なんだけど、ここは船大工の街で、彼らは船だけでなく、家や教会、学校まで作ってしまいました。それがいいって話です。潅木と池と岩石による荒涼とした風景、それはエミリー・ブロンテが書いた『嵐が丘』のような風景なんだけど、そんな丘陵を次々に車で越えて行くと、ふいと色鮮やかな町が現れるというんだね。
- 小池
- 『嵐が丘』は、小説だけでなく、ウィリアム・ワイラー監督、ローレンス・オリヴィエが出た映画で見ましたよ。イギリスのヨークシャーの荒涼とした、あの風景に似てるんですね。
- 永田
- ふいと色鮮やかな町が現れるというところが、あれと違うというんだけど。
- 小池
- なるほどなるほど。しかし、いいですね〜。永田昌民のノバスコシア州熱は、小さな家の探訪は、まだ納まりそうにありませんね(笑い)。
- 永田
- そうですね(笑い)。










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