特集

町に「緑の時代」を。

2009年10月28日 水曜日

提言書「若者よ、半世紀をかけて住宅をつくろう!」
後半に、提言書を全文掲載します。

大分県の 絶滅危惧種 オトメクジャク山口県の 絶滅危惧種 エヒメアヤメイラスト

はじめに

町の工務店ネット(代表/小池一三)による、政府・国土交通省に対する提言書「若者よ、半世紀をかけて住宅をつくろう!」が、どこをどう回ったのか分りませんが、今、あちらこちらで読まれ、大きな話題を呼んでいます。わたし宛にも、提言書を手に入れたいというメールがたくさん入っています。反響の大きさに驚いています。
業界紙の新建ハウジングが発行する『プラスワン』11号に全文掲載されることになりましたが、町の工務店ネットの活動に関心を持つweb『びお』の読者には、それより少しだけ先に紹介することにしました。
この提言書の実現がはかられるかどうかは、まだ不透明です。というより、相当ハードルは高いと見なければなりません。
けれども、政治を揺り動かそうという気宇を持った提言書であり、現実性と未来性を併せ持った提言書であるとの評価が寄せられていて、それに大いに励まされています。
この時代閉塞の時代に、一石を投じることができれば、それなりに意味があると思っています。先ずは、ご一読ください。


 


【解説】

町の工務店ネット代表・住まいネット新聞びお編集長/小池一三

 

経緯

この提言書は、作家であり、「日本に健全な森をつくり直す委員会」(委員長/養老孟司)の委員でもある天野礼子さんを通じて、前原誠司国土交通大臣に手渡されました。
前原大臣は、この提言書をよく吟味するようにと国交省住宅局長に指示され、天野さんに対して、これを菅国家戦略担当大臣と農林水産省の山田正彦副大臣を通じて赤松広隆農林水産大臣にも渡して欲しいとの依頼がありました。
この提言書を起草したわたしは、国交省住宅局に招かれ、ヒヤリングを行うことになりました。釈迦に説法を行っているような、冷や汗もののヒヤリングでありましたが、1時間半にわたって聞いていただくことができました。概算予算とりまとめで多忙を極める時期にも関わらず、住宅局長をはじめ中枢メンバー15名の方々が一堂に会され、拙い話を聞いていただいたことに敬意を表します。

今回の提言書について、奔走いただいた天野礼子さんは、亡くなった作家の開高健さんと一緒に長良川河口堰問題に取り組まれ、公共建設問題、殊にダム問題について、道を拓いてこられた先駆者です。
前原大臣は、彼女が国交省に現れたこと自体、政権が変った象徴的な姿だといって天野さんを冷やかしたそうです。天野さんと前原大臣は、民主党の「ネクストキャビネット」の国交大臣のときに、「緑のダム」構想を一緒に作成して以来の仲で、お二人の関係は昨日今日のものではありません。
わたしと礼子さんの関係は、京都大学フィールド科学教育研究センターが進める森里海連環学の実践塾を一緒に開くようになってからのことです。この実践塾の塾長を天野さんに務めていただき、わたしはその塾頭を務めています。
森里海連環学実践塾は、東京・高知・長野・島根・奈良・山形・鳥取で実践を重ねてきました。この実践塾を開始してから、もう6年目を迎えようとしています。来年1月には、長崎県の対馬での開催を予定しています。

「山」と「町」を結ぶ取り組み

今、日本の「山」は、伐り捨て間伐をやめ、作業道をつくり、材を運びだすことが焦眉の課題となっています。しかしいくら作業道をつくり、材を運びだしても、それを活かす「出口」がないと、木は生かされません。わたしはそのことを、礼子さんに口酸っぱく言い続けてきました。
勘働きのいい天野さんは「そりゃそうだ!」と納得され、それを言いだしたわたしに、間髪いれずに「それなら出口をしっかりつくろうよ」と注文をつけました。
目を現実に転じるなら、国産材が占める割合(木材自給率)は、20%程度と低迷を続けていましたが、ここに来て4%程度増えました。しかしながら、絶対量からみると、依然として低迷を続けていることに変わりはありません。日本の新築住宅は、戸建に限っていえば、その8割を工務店が担っています。日本の住宅は工務店による野丁場生産に、大半を頼っているのです。そしてその大半は木造住宅です。にもかかわらず、国産材利用が進まないのは、つまり工務店の大半が国産材を使っていないからではないか。
天野さんは、セミナーやシンポジウムでわたしを紹介するとき、いつもこの数字を持ちだします。これまでは6割と言っていましたが、それは住宅全体のことで、戸建に限っていえば8割です。これは実に驚くべき数字です。
多くの人は、ハウスメーカーが大半の家をつくっていると思い込んでいます。それはテレビコマーシャルの影響によります。また、それに影響されて、工務店がハウスメーカーのデザインを後追いして、建物のデザインが似てしまっていることも影響しています。これは考えもので、工務店はもっと独自のデザインを生むべきです。
いずれにしても、日本の新築の8割は工務店が造っている、これは紛れもない事実です。この事実は誇りであり、住宅問題について、もっと堂々と喋ってもいい立場にあることを知っておきたいと思います。

話を山と町の関係に戻します。
山で課題とされる「森林所有者のとりまとめ」については、養老委員長の提案により、「日本の森をつくり直す地方銀行有志の会」に名を連ねる64行の地銀がとりまとめに動く話が出ています。伐採区域の集約化がなければ、作業道は通らないからです。各地の森林組合には、この能力が不足しています。それを地方銀行に買って出てもらおうというのです。これが実現されると、各地の山から材が出てきます。
となると、町側がそれを買い求めるかどうかです。
山から材が運び出されたとして、それが町側の望む木材質に適っていなければニーズに合いませんので、町はそれを買えません。
町側の中には、「ムク材」だといえば人気が得られると、「ズブ生」材を用いるところがあり、それがユーザーの不信を買い、さまざまな問題を惹起させている不届き者も、一部ですがいます。また、ここに来て工務店の住宅受注が激減していますので、実際問題、山からの「出口」が開かれているわけではないのです。
わたしは、前に「近くの山の木で家をつくる運動宣言」をまとめ、その「宣言書」を起草し、それを一大運動に高めた経験を持っています。この運動は、各地でそれなりに根付いていますが、国産材利用率の低さを見ると、まだしもの観があります。山と町の絆も、今一つ深まっていません。内心忸怩たる思いを持っていたのです。
しかし、現実の壁は厚く、一口に「町に“緑の時代”をつくる!」というものの、流れを呼び込むのはそう容易なことではありません。

今、日本の政治は、これまでのようなやり方で通らなくなっています。もう陳情的手法や、従来型の審議会では事は運びません。今の政治に望まれているのは従来型の「陳情」ではなく、政策に影響をつくりだす、実効性を持った「構想」です。
この提言書が政策に取り入れられるかどうかは分かりません。けれど、一つの構想として動き出していることは確かです。

長期優良住宅と提言書

民主党はマニフェスト・オンリー主義に陥っているとの批判があります。
選挙の洗礼を受けたとはいえ、マニフェストのなかには、支持率の低い政策もあり、また財源が限られていることもあり、今後、いくらか軌道修正を余儀なくされることでしょう。政治は現実ですので、国民の感情に合う、いい判断をしてもらいたいと思っています。
このマニフェストで、われわれとして気掛かりなのは、住宅に関わる部分でした。既存住宅の改修は明記されていても、新築に関しては何も記されていませんでした。

この提言書では、既存住宅の改修を進めるためには、ホームインスペクション(検査・診断)に加えて、資産価値評価の基本となるアプレイザル(評価)基準の策定が必要不可欠であると書きました。
既存住宅と新築を分離するのではなく、統一的な視点に立った制度が必要との認識にもとづいています。これは今後を考えると、決定的に大きな問題です。
CO2を25%削減(90年比)することにも絡みます。
家庭用エネルギーを省エネするには、建物の断熱・気密を高め、熱負荷を低減することが求められ、そのためには断熱改修を進めるのが一番の得策です。
しかし、既存住宅の断熱改修を進めるには、壁を剥がさなければなりません。壁を剥がすと耐震改修も浮かび上がります。壁を剥がして断熱改修だけやる人もいなければ、耐震工事だけをやる人も限られています。わたしは静岡県に住んでいますが、ご承知のように、静岡県は「東海地震」が、この30年以内に80%の確率で起こる地域とされています。県は、補助金を出すので耐震改修をしてくれと全戸配布の「県民だより」で再三アピールしているのに、一向に進みません。要するに、単独の耐震改修だけではダメなのです。断熱も、耐震もやり、室内の壁を土壁に変えたり、設備も新しくしたりという、大規模改修でなければ魅力を感じないのです。
テレビの『劇的ビフォーアフター!』が、今も視聴率を得ているのは、家を大規模に一新したいという要求が根づよくあることを表しています。
しかし、大規模改修するためには、お金も多額に掛かります。
今の既存住宅の改修は個人クレジットの範囲のものであり、大規模改修するのには、これでは足りません。金融機関が、大規模改修するに必要な資金を住宅ローンに出来ないのは、建物の資産評価ができないことに尽きます。新築は、それなりに評価手法が定まっていますが、既存住宅の改修といっても、どれだけお金を掛ければ、どのように改修されて、それがどのような担保価値を持つのか、何も分かりません。これでは、金融機関は住宅ローンを組めず、保険・保証機関も動けません。
しかし、ホームインスペクション(検査・診断)が定まり、資産価値評価の基本となるアプレイザル(評価)基準が制度化されれば、それに基づいて、貸し出せる住宅ローンの額を算定することができるようになります。
貸し出しを受ける側は、工務店の建築予算と、金融機関が示す住宅ローン額の算定をもとに、既存住宅を改修するのがいいか、いっそ新築にする方がいいのか、判断することができます。この判断は、工務店・建築士・住まい手が一緒になって、家造りに伴う前後左右をよく考えて行わなければなりません。正確なデータがないところで、判断するのは土台ムリな話です。その基準となる制度の確立こそが求められているのです。
現在、民主党は、保険を掛けて貸し出す方式を検討しているようですが、その保険は瑕疵担保の性格を持つものに過ぎず、加えて個人のクレジットを付けるという、従来的な方式の改良に過ぎません。基本となる「検査・診断、資産価値評価」制度の確立がなければ、民主党のマニフェストにいう既存住宅の改修は、絵に描いた餅に過ぎないとわたしは見ています。
2000年に開始された「品確法」にはじまる評価手法と、長期優良住宅の認定基準があるわけだから、それを既存住宅にも当て嵌めて、新築だ、既存住宅だと分けるのではなく、一貫し、正確なホームインスペクション(検査・診断)と、資産価値評価のアプレイザル(評価)基準を定めることです。

民主党の中には、「長期優良住宅は福田政権が始めたものであり“金持ちのための広い家”という見方がある」と聞きます。
福田政権が、これを施政方針演説の目玉にしたので、そういう見方が出るのは致し方ないかも知れませんが、この元になったのは2000年に始まる「品確法」であり、それは阪神淡路大震災による痛切な被害が背景にあります。
6.434名の死者は、同じく2000年に改正された建築基準法によって建てられたなら1/10で済んだといわれます。長期優良住宅の耐震基準2は、基準法の1を上回ります。「長期優良住宅」は、断熱・気密についても次世代省エネルギー基準にもとづいており、これもこれからの住宅に必須の項目です。
つまり、長期優良住宅は、福田政権による政策というのでなく、震災による痛い経験と、世界の流れの中で必然的に導き出されたものです。
「長期優良住宅普及促進法」は昨年11月に衆参両院とも全会一致で採択しており、賛成票を投じた民主党もその責任を負っています。したがって、この実行は新政権に引き継がれるべきものです。そして、その住宅が「長期」を冠にするというなら、それは“金持ちのための広い家”ではなく、若い人によって担われるべきである、というのがわたしの提言書の主旨なのです。
政府は、一方において、林業に関しては作業道の建設をマニフェストに掲げています。
農水省の山田正彦副大臣は、来年度予算で「森林取りまとめ」と「作業道づくり」しか予算をつけないと言明しています。しかし、そうして伐り出した木をどう使うのかが欠落しており、「出口」を「木の家」に求めるというなら、現行のマニフェストは整合性が欠けていると言わざるを得ません。

長期を展望しながら、短期的な景気浮揚にも有効

提言書は、長期的な視点に立ちつつ、短期的な景気浮揚にも役立つものです。
新築であれ、改修であれ、住宅建設は個人資産を引き出します。
しかし、これを現実のものにするには「金融システム」が整備されなければなりませんし、それを条件づける方法が開発されなければなりません。
今の50年ローンは、既存の「フラット35s」(35年ローン)と比較すると、返済総額で1.3倍(約800万円)もの支払い額の差が生じます。また、すでにみたように、リフォームローンは、大規模改修に必要なローン額を出せずにいます。
長期ローンも、既存住宅の改修ローンも、共に金融機関のリスク回避が前提にあり、本来なら政府系金融機関である住宅支援機構が担うべきものですが、特別行政法人になり民間扱いされている関係上、そこに政府資金を投入することは難しいのが現実です。
この提言書は、これまでの枠をはみ出しており、大きな政治のチカラを必要としています。わたしにとって、身を持て余す大きな働きかけを、今国交省に行っているのはこのためです。
鳩山新政権が誕生して、これまで溜まった膿が吐き出され、新しい政治が動いています。国民の政治への期待は大きな高まりを見せています。
この「提言書」の最大の特徴は、タイトルにもある「若者」が住宅建設に向かうことにあります。この呼び掛けは、きつい批評になりますが麻生さんでは難しく、国民の心に響きませんが、鳩山さんや、菅さんや、前原さんが言うなら、若い人にもリアリティを持ってもらえるのでは、と思っています。政治指導者には、そういう大局というか、希望を語ってほしいと思っています、
わたしは、戦後、植民地から脱却したインドや、アジア、アフリカの指導者たちが、国民に向かって「希望」を語った映像や、書いたものを読んで育った世代です。
あるいは、わが国の戦後復興が、鉄と石炭に傾斜するばかりであったのに対し、西ドイツの初代連邦首相コンラート・アデナウアーが、焦土と化した戦後の出発にあたり「すべてを住宅建設に!」と呼び掛けたことを評価するものです。あの演説の後方には、ナチスによって挫折させられた、グロピウスなどの「バウハウス」の運動があります。
さらには、大恐慌後のアメリカでフランクリン・ルーズベルト大統領が「ニューディール政策」を掲げ、それに応えて「ユーソニアン住宅」を提唱したフランク・ロイド・ライトの事蹟を評価するものです。
コルビュジエも、ミース・ファン・デル・ローエも、またチャールズ・イームズやジャン・プルヴェも、日本の前川国男や吉村順三なども、「小さな家」や「ケース・スタディ・ハウス」の試みを行っています。この系譜の仕事は、まるで地下茎で繋がっているように、連綿としてあるのですね。
昨今、建築家たちは仕事がないといって嘆いていますが、目を転じたら、たくさんの仕事がそこにあると思います。その気づきがなければ仕事は生まれません。
この不況下に「50年を掛けて」という提言は、いささか現実離れしているかも知れません。誰もそんな先のことは分からないというでしょう。中には、「この不況時に、政府の片棒を担いで、何を馬鹿なことを!」と怒る人もいるかも知れません。けれども、政治を横から見て、あれこれ言いはするけど動かなければ何も進みません。大事なことは、前を見て、現実を一歩でも二歩でも進めることだ、と思うことにしました。
住宅は福祉の基本であり、「根城」があれば、「根城」がありさえすれば、今は不況でも、人は先を見据えて生きることができます。もし毎月「家賃程度」の支払いで、その「根城」が手に入るなら、勇気を持って乗り出す若者がいる筈です。そのことを業界人は堂々というべきではないでしょうか。
「業界」という言葉には、「甘い汁を吸っている」というイメージがついて回ります。そのことが、どうかすると業界人を卑屈にしています。しかし、工務店の多くは甘い汁などとは無縁で、額に汗して懸命に働いています。限られた予算の中で、どうしたらいい家ができるかに腐心しています。
医師に「ヒポクラテスの誓い」があるように、われわれにはわれわれの倫理と職能があります。その立場から、政治にもの申せばいいのです。
難題は、土地問題です。われわれの業界は、絶えず、これに悩まされてきました。
司馬遼太郎さんは、現実政治をあまり語る人ではありませんでしたが、事、土地問題については「土地と日本人」(中公文庫)という対談集をまとめておられるほど、その問題性を、執念に近いかたちで書かれました。別に、司馬さんと堀田善衛さんと宮崎駿さんが対談された「時代の風音」(朝日文庫)という本があって、この本の中でも司馬さんは土地問題について多くを語っています。日本がバブルに沸いている時期に、日本人の顔つき、心持ちが悪くなった、それは土地を商いの対象にしているからだと喝破されました。宮崎さんが映画で描かれている世界は、この度し難い現実に対する批判が込められています。
また、養老孟司さんは、独創的な「参勤交代論」を提唱されています。これは司馬さんが問題にされたことの解決策の一つです。
養老さんが言うように、土地を持っていない人は、地方に土地を持てばいいのです。たとえば東京人なら、東は栃木県の黒磯あたり、北は群馬の水口や、八ヶ岳山麓あたり、西は富士山麓まで広げれば、土地は安く手に入ります。
普段は都会に住んで、週末に本拠に帰ります。週末を利用して野菜をせっせと作り、街に持ち帰り、またそういう人が周りに増えれば作ったものを交換し合うのも楽しいでしょう。そうしてリフレッシュして、また仕事に精を出す、このサイクルを「参勤交代」というなら、それを了とする若い人はたくさんいると思います。
天野礼子さんはドイツの「クラインガルテン」に興味を持っておられますが、向こうは都心から30分も走れば郊外で、農村が広がっています。日帰りで農業がやれます。しかし日本では日帰りはきついので泊まりがけで出掛けなければなりません。そんなわけで、わたしは「泊まれるクラインガルテンをつくりましょうよ」と天野さんに言っています。ただ現状、郊外住宅に住宅ローンは付きません。これを政治のチカラで突破してもらいたいと思います。菅さんの「国家戦略室」(この呼称、好きになれませんが)の仕事です。
都市と農村を往き来するモビリティとして、無料化された高速道路が使われ、通勤割引の新幹線を使うことができればよくて、そういうのが高度経済社会なのだと思います。休日の設け方を変えれば渋滞などの混乱は避けられますし、地震などの災害が起これば、その家は「避難住宅」になり、老後は「終の棲家」になります。
また、都市に土地を持つ人は、今の家を改修したり、建替えたりして住みます。都市に執念深く住み続ける意思を持つ人も尊重されるべきです。ダウンタウンから人が消えているアメリカ型社会の方が問題です。
都市に住む住人は、地域によって高齢化が進み、老人ばかりが目立つ地域が少なくありません。子どもや孫は、家が老朽化している、狭いということもあって、同じ都会に住んでいても別居していて、離れて住んでいます。これを政治が言い立てることは出来ないでしょうが、日本の高齢者福祉は、現実問題、家が負わなければ難しい状態にあります。
ネックは住まいです。子どもや孫たちが、老人の住む家を改修し、建替えて一緒に住むことになれば、それは一つの解決策になります。
政治家は、国民の夕餉に思いを致し、住処(すみか)に目を向けるべきで、そこにあらゆる政策の種があり、また「景気浮揚」をはかる起爆剤があると考えることです。
もし、子や孫が同居しようと言い出し、建築を行うなら、タンスからお金は出てきます。50年長期の見通しを持ちつつ、短期的にも有効だというユエンです。

わたしは今の政権が持つ「青さ」を買っており、その「青さ」あればこそ可能かも知れない、と「提言書」を書いたのでした。

 


 

 

若者よ、半世紀をかけて住宅(すみか)をつくろう!

提言書:若年層を対象とする家づくり支援・長期優良住宅推進制度(仮称)

 

[提言の主旨]

本提言書は、すでに施行されている長期優良住宅普及促進法を、日本の将来を担う若年層に広く利用されるよう制度整備をはかるものであり、若年層が「家づくり」を積極的に発起し、よりよき自分の将来を重ね合わせられるよう「希望」を語るものです。
鳩山新政権が掲げる、CO225%削減目標の達成のためにも、また予想される大地震による被害を未然に防ぐためにも、住宅の建替えと既存住宅の改修が求められています。
また、住宅建設は景気に及ぼす影響が大きく、政治が「若者よ、半世紀(50年ローン)をかけて住宅をつくろう!」と呼び掛け、若年層がそれを担えるよう制度支援すれば大きな波が生まれ、短期的にも、中長期的にも、未来的にも、日本経済を下支えする「内需」を生み続けます。
若年層が動けば、当然に親世代も、持てる(動かぬ)預貯金を子世代に託すことになります。建設に伴って、各種建材、家具・電化製品の買替え需要も大きく促されます。
さらに各地の地域材を活用することを義務化すれば、「山の経済」は潤い、山の維持・育成に精がでます。植栽された樹木はCO2を吸収し、「緑のダム」を持った山は自然災害につよい山になります。
本提言書は、来年度予算の目玉政策として、また鳩山新政権の基本政策となるものです。

 

[提言の要旨]

  1. 現行の「長期優良住宅先導的モデル事業」「長期優良住宅普及促進制度」等を継続し、新たに長期(50年)住宅ローンを、現実的に利用できるメリットの高いものに改変します。
  2. 現行の利点であるホームインスペクション(検査・診断)に加えて、資産価値評価の基本となるアプレイザル(評価)基準を策定し、普及への流れをつくります。
  3. 耐震・省エネ等が問題視される住宅の建替え・既存住宅の大規模改造に対する、金融・補助金などの支援・助成策を強化します。
  4. 現行の長期優良住宅を改変し、国産材利用、さらなる省エネ化・自然エネルギーの活用を義務化し、山と流域の保全をはかり、CO2の大幅削減、地域経済活性化の流れを促します。
  5. 長期ローン利用者に対する具体策として、「住宅ローン利子所得控除制度」を導入します。
  6. 不動産取得税関連税、長期にわたる固定資産税等の減額措置もはかります。
  7. 長期優良住宅のスケルトン部分の消費税を適用除外(土地と同じ扱い)します。
  8. これらを促すには、長期的な視点に立った住宅政策の確立と、それを条件づける、新たな政府資金の投入が必要とされますが、それに倍する経済効果が期待されます。

この政策が、鳩山新政権にとって何故必要とされるのか、
以下、その理由について述べます。

 

[提言の理由]

  1. 平成20年度に衆参両院共に、全会一致で成立した長期優良住宅普及促進法(以下「普及促進法」と呼ぶ)は、大量生産・大量廃棄されるスクラップ・アンド・ビルドではなく、持続可能なストック型社会を目指すものです。そのような住宅は、性能・用材・工事面において高品質・コスト高にならざるを得ず、多くの国民がそれを取得(建築)するには、長期住宅ローンの制度化が必須の条件とされます。
  2. この長期住宅ローンは、それを長期にわたって支払い続けることができる若年層(45歳あたりまでか?)に担われなければなりません。しかしながら、この層は、現在、雇用と収入、年金・医療・介護などにおいて、きびしい現実に晒され、また将来に対してつよい不安を覚えており、展望を持てないでいます。
  3. バブル期まで、国民は均質な「中流社会」に自分を仮託することができました。即ち、子どもを大学にやって、マイホームを手にすることが、一つの社会目標であり、個人目標であり得たのです。けれども今、そのようなあり方は前世代の「栄光の過去」でしかありません。それが日本経済の不活性化の大きな要因となっており、明日への「希望」を与えるインパクトある政治の出動が求められるユエンです。
  4. 住宅は家族生活の拠点です。居住は福祉の基本です。そこが不安定な社会に安心もなければ未来もありません。未来に希望を持てない社会は、人々のエネルギーそのものが失われます。勇気を持って生活の根拠地となる家を建てることが、若年層の目標となり社会の模範となるべきで、それを支える制度整備が政治に求められているのです。
  5. 普及促進法の施行に合わせ、本年6月に「フラット50」(50年ローン)が打ち出されましたが、既存の「フラット35s」(35年ローン)と比較すると、返済総額で1.3倍(約800万円)もの支払い額の差が生じます。金融側による50年ローン設定は、長期性に伴うリスク回避が前提にあり、資産価値評価基準が定まっていないことが、その背景にあります。
  6. 長期優良住宅によって性能が担保され、それによりクレジットローン(個人への信用貸し)から、モーゲージローン(抵当権付担保ローン)への転換を図ることが、当初、制度設定の基本とされました。モーゲージへの転換は、ホームインスペクション(検査・診断)とアプレイザル(評価)基準の確立が必要とされます。前者のホームインスペクションについては、相当に進みましたが、後者のアプレイザルについては未だ定まり切れていません。もし建物自体が担保となる制度が確立されれば、長期ローンに伴うリスクはなくなり、長期ローンの障碍は取り外されます。
  7. これまでの不動産の建物評価は、建築後10年目から毎年1割ずつ評価が下がり、20年でゼロというのが通例でした。しかし、長期優良住宅によって性能評価された建物では、建築後10年経ち、20年経ったものでも、資産価値が認められるというのが、当初の目論見でした。この点で、自民党の政策は竜頭蛇尾に終わっており、不徹底さを免れません。
  8. もし長期優良住宅制度が、資産価値評価を伴うものになれば、住宅の中古市場は間違いなく活性化されます。現在、日本の中古住宅は、市場全体のうち13%しか占めておらず、これは米国の80%、英国の90%と比較すると、極めて低水準なものといわねばなりません。
  9. 民主党のマニフェストは、スターター住宅として中古住宅を設定し、米国型の買い替え・ステップアップ方式が基本と見られています。都心部のマンションの市場動向だけをみると、確かにこの方向で動いていますが、地域の戸建住宅に目を移すと、米国式のドライなあり方が一般化し、支配的になるとは思えません。歴史的に形成された日本人の住居観はそう簡単には覆らず、この方式だけに拘泥するのは考えものではないでしょうか。
  10. 日本人は、最初から家を売るものとして建てる人は少なく、日本人は、家を一度建てたら一生住み付くものと考えています。他人から見ると、竹に木を継いだような、奇怪ともいえる増改築が繰り返されるのは、資産価値がすぐに滅失されたからです。住宅は自分都合のものでしかなく、したがって「注文住宅」が好まれました。しかし、資産価値として評価されるようになれば、それを前提にして建築されるようになり、新築時に長期優良住宅の要件を満たすことが普通になります。また将来、住まい手が売却する事情が生じた場合にも、「価格(資産価値)のつく」ものであれば、家族の選択肢は格段に広がります。
  11. 既存住宅の改造・再生に目を向けるなら、日本では、内装や古くなった設備を取り換える工事(リフォーム)はあっても、建物の構造に及ぶ工事は極めて少ないのが現実です。既存住宅の資産価値評価が定まらなければ、金融上の担保価値も定まらず、本格的・大規模な改造・再生工事も促されません。現況、リフォームローンは個人信用の範囲に留まっています。地震対策のための大規模な改造を行うにも、中古住宅を資産評価する基準を、金融・保証・保険機関が持っていないので、貸出額は小額に限定され、支払期間は短期間のものとならざるを得ませんでした。
  12. しかし、既存住宅の資産評価は、既存建物の正確な調査と解析を必要としており、図面を精査するにも、その図面自体が紛失していたり、不足していたりして定かではありません。イギリスで行われているような「建築病理学」の方法に学んだり、非破壊検査機器を開発して、人体におけるX線や胃カメラ、光学系の内視鏡などのように、建物を壊さずに建物内部の状態を調べあげ、判定する手法を確立しなければなりません。また、それを担う人材は「住宅医」と呼び得るにふさわしい経験と知識を身に付けなければなりません。そして、現況建物を、どう改修したら資産価値を生むのかということまで明確にしなければ、それを制度とは呼べません。
  13. これらは一朝一夕に成就できるものではありませんが、既存住宅の改修の重要性を政治が理解し、踏み出せば、日本の建築技術者は、それに応える能力を有しており、非破壊検査機器の開発も、日本の科学技術を以てすれば、そう難しいことではありません。
  14. 建物の資産評価基準の制度化は、中古住宅+リノベーション+長期ローンというステップアップ方式の基本となるものですが、長期ローンを利用して「小さな家」を建築し、家族が増えたら増築・改造して行くという、もう一つのステップアップ方式にとっても必要不可欠な条件です。その際、増築・改造費用は長期ローンに追加融資を組み込めることにします。住み込みながら、建築面積を増やし、建物のレベルアップをはかることを可能とするのです。
  15. 本提言書がテーマとする50年に及ぶ長期住宅ローンは、一代で支払い切るのは困難です。即ち、二代にわたって支払うことを前提に制度化されなければなりません。また、子どもにそれを引き継いで貰えない場合や、何らかの事情が生じて他人に売却する場合には、その住宅の購入者が、そのままローンを承継できるようにすべきです。その基本となるのが住宅の資産評価であり、モーゲージ(建物担保)を前提とした、金融・保証・保険制度に及ぶ制度整備です。
  16. 今なお住み続けられている民家や町家は、一代のものではなく、将来の、おそらくは見ることのない子孫のことを配慮して建てられた世代間建築でした。本来、住宅はそうした性格を持つものであり、消費経済の短サイクルの中に置かれるべきものではありません。長期優良住宅は、二代にわたってローンを支払うことを当たり前のことだと社会化し、家を建てるとはそういうことだという認識を育てることが大切です。
  17. もし若者が50年ローンで家を建てることを発起するなら、その親は持てる財産を子のために使ってもいいと考えるようになるでしょう。個人が持っている金融資産が出て来ることは、目下、最大の懸案とされる景気浮揚を促すことになります。また、この制度によって中古住宅が市場化されるようになれば、人は建物のお手入れに励むようになり、それは長期にわたって、内需を持続的に下支えする条件となります。
  18. また本提言書は、地震対策上、問題ありとされる1981年の建築基準法以前の住宅の建替えを促進します。兵庫県南部地震による死者は6.434名を数えましたが、この80%相当、約5000人は老朽家屋の下敷きによって亡くなっています。2000年の建築基準法改正に基づく耐震基準で建築されていれば、その死者は1/10で済んだといわれます。危険視される1981年の建築基準法以前の住宅は、今なお、全住宅の46%を占めています。
  19. 2000年に改正された建築基準法によって「耐震性能等級1」が義務づけられました。この耐震基準によって、震度7の地震の揺れで倒壊する被害発生率は、28%と予測されています。しかし、大地震の勃発によって生じる大被害を未然に防ぐには、さらに高次な耐震性能が求められます。長期優良住宅の要件とされる「耐震性能等級2」で建てると、被害発生率は7.9%に減ると予測されており、長期優良住宅への誘導は、国民の生命と財産を守る上で、欠くことのできない重要政策です。
  20. 先ず1981年の改正建築基準法以前に建てられた、不適格住宅の建替え(または大規模なリフォーム)をはかることです。しかし、住宅は個人財産であり、強制的に撤去したり、建築することは出来ません。国民に地震による被害の可能性を伝え、自覚を促す他ありませんが、強調し過ぎるとパニックを引き起こしかねませんので、政策的に誘導をはかるしかありません。
  21. 次に重要なことは、2000年の改正建築基準法以前と、以後に建てられた住宅について、それぞれ適正なリフォームをはかることです。長期優良住宅は、既存住宅も対象としていますが、評価する方法が確立しておらず、長期ローンの制度もありません。
  22. 最近の傾向として顕著なことは、子や孫は、田舎においてだけでなく都市部においても別居している例が多いことです。このため危険視される家屋の住人は高齢者が多くを占め、大都市においてさえ「過疎化」が進行しています。過疎化し、高齢化した親や祖父・祖母の住む家に、子や孫が戻って一緒に住むことが、日本的福祉社会の望ましい姿とするなら、住宅自体の建替え、改造が必要になります。住宅が生活の「砦」になれば、家族の相互扶助が自然と促されます。
  23. また本提言は、鳩山新政権が掲げる地球温暖化防止のための「25%削減」に大きく貢献するものです。建物の性能自体、長期優良住宅は次世代省エネルギー基準を必須の条件としており、その普及は、建築自体に掛かるエネルギー消費を大幅に削減します。殊に、「ザル住宅(エネルギー放散型住宅)」と呼ばれる既存住宅の省エネ改修は、太陽光発電の導入以上に効果的とされます。
  24. 日本の住宅の平均寿命は30年です。米国55年、英国77年に比べて短く、殊に戦後の住宅はスクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきました。もし100年持つ住宅なら、建築に伴う膨大なエネルギー消費が大幅に減少されます。
  25. コンクリート塊が建設廃棄物に占める割合は47.45%(昭和30~40年代に建築された木造住宅の解体ゴミの内訳)に達しており、住宅の平均寿命が3倍延びれば、その分、ゴミも減量されます。さらに期待耐用年数の高い基礎工事を施せば、建物本体が解体され再築される場合においても再利用することができます。長期優良住宅は、建物劣化と維持管理の性能までを義務化しており、ストック型住宅の条件を具備しています。
  26. 日本は、地下資源こそ恵まれていませんが、「地上資源」には恵まれています。建築廃棄物を「ミンチ解体」しないで、分別・再利用を図れば、ゴミは資源に変わります。再利用されるアルミは、バージンのそれと比較すると約190分の1のエネルギー消費で賄えます。スチールは約60分の1で再生産されます。
  27. 最大の「地上資源」は木です。もし100年持つ住宅を建築すれば、その間に木は育ちます。木は最大・最良の「地上資源」であり、循環型社会の核となる建築用材です。間伐するものを間伐し、長伐期の木材が育てば、それは日本の将来の財産になります。それはまた、荒れた山によって惹起される「自然災害」を防ぎ、国土の環境保全と涵養に大きく貢献します。建てられた木造住宅は、CO2を長期間にわたって「缶詰」し、植えた木はCO2を吸収します。
  28. 建設される住宅は、良くも悪くも、結果において町並み景観を形成します。樹木を植えることを義務化することで、緑に溢れる町並み形成をはかります。殊に、地域固有の自生種の樹木や草花を植えることを奨励します。樹木と草花に昆虫や小鳥が寄ってきます。それによって生物多様性が条件づけられます(来年、COP10が愛知で開催されます)。
  29. 今、米国でネガティブ・エクイティ(住宅を売却してもローンを完済できない人)が問題になっています。830万人、住宅ローンを借りている人の5人に1人に達します。日本でも、ネガティブ・エクイティはすでに起こっています。ボーナスの併用払いはローン破綻の原因になっており、清算しようにもローン残債が資産を上回る状態になっている例が増えています。個人の支払能力の低下もありますが、土地価格がダウンして、建物は評価ゼロであれば、売却すればネガティブ・エクイティに陥り、それが社会不安をもたらすことは避けられません。
  30. 長期住宅ローンは、毎月の支払いは少額・フラット(ボーナスは支払いに入れない)に、ムリなくゆっくり支払える制度でなければなりません。仮に支払い破綻者が出たとしても、そのローンを承継できるようになっていれば、ネガティブ・エクイティは惹起されず、それが長期住宅ローンにおけるリスク回避の根拠・条件になります。
  31. 長期優良住宅の制度は、すでに動いている制度です。「先導的モデル事業」による督励(最大限200万円の補助金制度)や、緊急経済対策として取り上げられた長期優良住宅の補助金(最大限100万円の補助金制度。年間の新築供給戸数が50戸未満の工務店が対象とされた)などの施策は、この制度の普及促進に貢献すること大であり、中小企業に対する経済対策としても有効です。いい制度は残し、悪い制度は棄却する新政権の方針に沿うなら、この制度と施策は継続されるべきものです。しかし、本提言にいう若年者の建築を促しているかといえば、コスト高が影響し、また長期住宅ローンというには制度整備が弱く、普及が妨げられていることは否めません。
  32. 本提言書は、強力なリーダーシップのもと、政治主導で実現される必要があります。
    かつて西ドイツの初代連邦首相コンラート・アデナウアーが、焦土と化した戦後の出発にあたり「すべてを住宅建設に!」と呼び掛けたように、
    「若者よ、半世紀をかけて住宅をつくろう!」と力強く、かつ誠実に呼び掛けられれば、それに応えるエネルギーを、わが国民は、決して失っていません。
    政治は現実であり、希望でもあります。前を向いて生きようという若者の台頭が、社会のあるべきモラルを生み、良き社会を実現するのです。
    以上、提言致します。
町の工務店ネット
代表 小池一三
2009年10月3日

 


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