びおの珠玉記事

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旬のデータ 秋の魚介類

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年10月03日の過去記事より再掲載)

さけ(鮭)

鮭

秋を代表する魚。産卵のために群れをなして川を上る姿は秋の風物詩。
日本で獲れるサケはシロザケ・ベニザケ・ギンザケ・マスノサケ(キングサーモン)の4種類。9〜11月に獲るものを「秋サケ」と呼び、その代表はシロザケ。産地では秋の味覚という意味で「アキアジ(秋味)」と呼ばれている。鮮魚のままで流通するより、漁獲してすぐに塩漬けにした、新巻きや塩ザケになって出回る方が多い。
サケは晩秋、川の上流で産卵され、孵化した稚魚は春、川を下り、海で成魚となり、4年ほど回遊したのち生まれ故郷の川に戻って上流にさかのぼり産卵する。川を上るときは餌をとらないため、産卵後、衰弱して死んでゆく。
近年は、稚魚を放流して資源が減らないようにする努力も続けられている。

選び方
鱗が銀色に光って、体が太く、身にピンと張りのあるものを選ぶ。大きさでは4kg前後のものが味がよく、腹の肉が厚いものが脂ののりもよい。味はオスの方が美味しいとされる。
エラの色が鮮やかで、くしの歯のようにきちんと並んでいるものが新鮮。
切り身は身肉が鮮やかな赤色で、皮目は黒っぽく銀色に光るものを選ぶ。
一般的には、川に上る前のサケは美味しく、産卵近くのものや産卵後に体色が変化したものは美味しくない。
また、初夏に沖合いで獲れる「トキシラズ」は脂がのっておいしい。

料理の例
サケは、塩焼き・ムニエル・フライなどにして食べるのが一番。その他、照り焼き・かす漬け・麹漬け・幽庵焼き・三平汁・鍋物(味噌仕立ての石狩鍋)・マリネ・ちらしずし・お茶漬け・おにぎりの具などにも。
サケの卵であるスジコ(未熟)・イクラ(完熟)は、寿司だねなどに使われる人気食材。
サケは捨てるところがないと言われる。鼻先の軟骨は「氷頭(ひず)なます」に、腎臓・胃腸は塩辛に使われる。その他、尾や精巣の白子も食べられる。

地域名・別名
しろざけ、あきあじ、とき、ときしらず、おおめ、ピンコ(青森)、らしゃます(塩釜・釜石)、けいじ(若い鮭、鮭児)

いとよりだい
(糸縒鯛/糸撚鯛/糸綟鯛)

漁獲量が少ないため、関東ではあまりなじみのない魚だが、関西では姿と味のよさから高い評価を得ており、タイに準じる高級魚として珍重される。釣り魚としても人気がある。タイの名がついているがタイの仲間ではなく、姿形も異なるが、タイの代わりを務めるほど美味である。あっさりとした上品な白身の魚。通常はイトヨリと呼ばれることが多い。
赤くやや細長い体に、鮮やかな黄色い縦縞が6〜8本ある。尾びれの上部が長く伸びて金色の糸のように見え、まるで金糸を撚(よ)るように泳ぐことから、この名がつけられた。美しく華やかで、鮮魚コーナーでもひときわ目立つ。水揚された後も体色の美しさがあまり変わらないので、祝い事や祭り事に使われることも多い。
近年では香港、韓国からの空輸便で新鮮なものが多く入荷するようになった。
産卵を終え、餌を十分に食べて肉質のよくなる秋から冬にかけてが旬。

選び方
縞模様が鮮やかで、肌につやがあり、目が黒く澄み、尾ビレに透明感のあるものが新鮮。腹がしっかりしているものを選ぶとよい。
エラブタの上の赤い斑点の色が鮮やかなもの、体色が美しいピンク色をしたものは鮮度がよい証拠。
近縁種のソコイトヨリがイトヨリと区別しないで売られていることがある。イトヨリダイには、エラブタの上端に濃い赤の斑点が3個、前後に一列に並んでいるが、ソコイトヨリにはこの斑点はない。また、体側の縞の数も少ない。イトヨリダイの方が味は格別によいので、この区別を覚えておくとよい。

料理の例
骨は硬いが、やわらかな肉質なので丁寧に扱う。振り塩で引き締めてから調理するとよい。
鮮度のよいものは、何といっても刺身で食べるのが一番。(マダイと同じように、皮霜造りなどで調理するとよい。)
蒸して椀種にすると皮目の鮮やかさが引き立ち、彩りがいい。
「糸縒鯛の煮るに惜しきはなの彩り」とも言われるが、煮魚にすると、淡白なあっさりとした白身の上品な味わいの中に、脂肪がまとわりつくように立ち、ほのかな甘みがこたえられない旨さ。
小さいものだったら、丸煮、から揚げ、フライに。その他、塩焼き、照り焼き、みそ漬け、ポワレ、エスカベッシュ、ブイヤベース、グラタンなどさまざまに利用できる。

地域名・別名
いとより(別名)、いとひき(関西)、あかな(鹿児島)、いたいた(富山)、ええのうお(福岡)、おいしゃ(山口)、しぶかみ(和歌山)、ぼちょ(和歌山)、しょうべんうお(熊本)、ばり(神奈川・広島・山口・福岡)、てれんこ(小型のもの、和歌山)

いぼだい(疣鯛)

タイの名がついているがタイの仲間ではなく、マナガツオの近縁種である。エラの上部に丸くて黒い斑紋があり、これがお灸の跡、イボに似ているとして、この名がつけられた。幼魚の時に大きなクラゲのかさの下に隠れるように共生するところから、クラゲウオとも呼ばれる。
小型で脂ののった白身魚で、味は思いのほかあっさりしている。消化がよいので胃腸の弱い人のタンパク源として適している。また、伊豆地方で好んで食べられる。
横から見ると卵のような長円形で平べったい形をしている。頭部や口が小さく、丸みを帯びていること、また筋肉の模様が浮き出て葉脈のような筋が見えるのも特徴。体色は、海にいる時は淡い灰青色だが、水揚されると灰色になる。ウロコが非常にはがれやすく、市場に並ぶ頃にはほとんどはがれてしまっている。はがれた後、体表から出た粘液でネバネバしている。
南日本や東シナ海で多量に水揚される。北米大西洋で獲れる近縁種のバターフィッシュも市場ではイボダイとして売られているが、別のもの。しかし価格の安い干物のほとんどは、このバターフィッシュが原料になっている。
秋からが、脂がのって最もおいしい時期。干物にすると、格別なおいしさが味わえる。

選び方
一見して、体が黒ずんでヌルヌルしているものが新鮮。体表のぬめりが透明なものがよい。
目が黒く澄んでいるもの、エラブタの上の黒い斑点が鮮明なものも、鮮度がよい。
腹が白く張っているものは脂がよくのっている。
ウロコがはがれていても鮮度とは関係ない。

料理の例
煮魚、塩焼き、バター焼き、照り焼き、みそ漬け、粕漬けなどに向く。ヌルヌルは塩で洗うとさっぱりする。
開き干しにすると味がいっそうよいので、家庭で塩焼きにする時も、開いて塩をふり、半日ほど風干しにしてから焼くとよい。
一般的に生食はしないが、獲れたてなら刺身にしてもおいしい。その他、蒸し物、から揚げ、フライ、ムニエルなどにも。
中華料理では蒸し物や揚げ物にする。酒蒸しにして、ごま油入り酢醤油、あるいはにんにくやしょうがを加えた薬味醤油をかけた料理は格別においしい。

地域名・別名
あごなし(千葉)、えぼだい(東京・千葉)、うぼせ、うぼぜ、しず(関西)、よし(京都)、くらげうお(瀬戸内海)、ばか(高知)、こたい(鹿児島)、旦那魚(神戸)、ぎち、しゅす、こた

かます(魳/梭子魚)

アカカマス、ヤマトカマス、アオカマス、オニカマスなどがあり、「カマス」はそれらの総称。一般にアカカマスがよく食べられることから、アカカマスをホンカマスとも言う。夏から初秋にかけてが旬。サンマよりも早く秋の訪れを告げるといわれている。
江戸時代には、機織りの横糸を通す杼(ひ)=梭(さ)に姿が似ているところから、梭子魚と呼ばれた。大変攻撃的な魚で、泳ぐスピードは時速150kmにも達するといわれる。白身の肉は淡白で、水分が多くやわらかい。
アカカマスは細長い体と大きな口が特徴で、背のあたりが赤みを帯びた黄褐色をしている。日本で流通するカマス類には他にヤマトカマスがいる。アカカマスより水分が多いため、通称「ミズカマス」と呼ばれる。ヤマトカマスの旬はアカカマスより少し早い。
水揚量はアカカマスが最も多く、値段も高い。関東より、関西で人気のある魚である。練り製品の原料としても利用される。

選び方
一番味がいいのはアカカマス。大きくなると脂がのり、身も締まっておいしくなるので、なるべく大型で太っていて、銅がしっかりしているものを選ぶ。
また、目が澄んでいることもポイント。
干物は透明感があり、身がしっかり干し上がったものを選ぶ。

料理の例
「カマスの焼き食い一升飯」という諺があるように、塩焼き、干物がおいしい。身離れが悪いので熱いうちに食べるとよい。
塩焼きは、水洗いしたらすぐに水気を除く、焼くときに塩をしたら間をおかず焼く(塩で水分が出て、白身魚特有の味や甘味がぬけてしまう)のがコツ。
カマスの干物は、もっともおいしい干物のひとつと言われる。干物にするとうまみが凝縮しておいしくなる。頭を割らずに残し、背開きにした「小田原開き」が一般的。
もともと水分が多く肉がやわらかい魚なので、塩焼きや幽庵焼き、一夜干し、みりん干しなどで身を締めてから食べるのが定法。水分が多いので煮魚には向かない。
その他、フライやムニエルに。新鮮なら刺身にしてもよい。
ヤマトカマスは、干物やフライにするとおいしい。

地域名・別名
アカカマス=かます(一般)、ほんかます、あらはだ(和歌山)、つちかます(高知)、しゃくはち(和歌山、島根)、アカカマサー(沖縄)、ヤマトカマス=カマス(一般)、ひゅうひゅう(和歌山)、みずかます(東京)

さんま(秋刀魚)

秋刀魚

秋を代表する大衆魚。落語や詩の題材になるなど、古くから日本人に愛されてきた。中秋を迎えたサンマは脂肪が20%にもなり、一段と旨さを増す。秋が旬で、体が細長く、刀のように光っているところから、漢字で「秋刀魚」と書く。イワシやサバ、アジと並ぶ典型的な「青背魚」である。
オホーツク海から九州までの太平洋、日本海の両側に広く分布し、秋に孵化した稚魚は、日本列島に沿って北上して成長する。夏になると産卵のため南下し、産卵前まで徐々に太り脂がのって、秋においしくなる。北海道東沖や三陸沖のサンマは、豊富な餌を食べているため脂がたっぷりで太っているが、南下するにつれて脂肪分は徐々に減り、やせてくる。
大型船のサンマの漁獲解禁は8月末で、以後、南下する魚群を追って12月まで漁獲される。鮮魚として出荷される他、冷凍されるものも多く、近年では冷凍物が通年流通している。
食材の価値としては栄養の豊かさはもちろん、価格の安さも重要である。大衆魚の代表であるイワシの価格が高騰した今、1年中安価に提供されるサンマは、安くて栄養豊かな「大衆的青魚」の代表といえるだろう。

選び方
体に光沢があり、ウロコがたくさんついているものが新鮮。
目が黒く澄んだもの、体が流線型で、背が青く、腹側が銀色に輝いているもの、腹がしっかりしているものを選ぶ。
30cm以上の大きくて身が硬く張り、尾まで太っているものほど栄養状態がよく、脂がのっている。特に、口先や尾の付け根が黄色くなっているものは、「大漁サンマ」と呼ばれ、脂がのって最高に美味。

料理の例
脂ののった旬のものなら、塩焼きが一番。大根おろしを添えて、かぼすやすだちなどをしぼり、新鮮なものは内臓まで食べる。内蔵のほろ苦い味もなかなかおつなもの。
その他、刺身、寿司だね、「なめろう」、煮つけ、蒲焼き、竜田揚げ、干物など。
サンマは漁獲された海域により味に差があるが、各産地の郷土料理は、それぞれの身質を上手に利用している。岩手県宮古市の姿造り・酢味噌和え・すり身汁、福島県いわき市の「みそたたき」・みりん干し、千葉県銚子市の酢の物・「さんが」・南蛮漬け、三重県尾鷲市のさんまずし、福井県三方町の「へしこ」など。
缶詰も出回っている。

地域名・別名
さいら(関西・南紀・高知・長崎・鹿児島)、さえら(関西)、かど(三重)、さより(富山・石川・和歌山)、さよら(京都)、せいら(壱岐・長崎)、ばんじょ(佐渡)、さいりい(大阪)、さざ(長崎)、すず

まいわし(真鰯)

真鰯

日本の大衆魚の代表格であり、昔から日本人には馴染みが深い。紫式部のひそかな好物だったとも伝わる。サンマやサバ、アジと並ぶ典型的な「青背魚」である。
一般にイワシと呼んでいるのはマイワシのこと。腹は銀白色で、腹の上側に7つかそれ以上の黒い斑点が一列に並んでいるので、「ナナツボシ」とも呼ばれる。春から夏にはエサを求めて北上し、秋から冬には水温の低下とともに南下するなど、季節に合わせ、大きな群れを作って回遊している。稚魚はカタクチイワシの稚魚とともに「シラス」と呼ばれる。干物(めざし)・煮干し・シラス干し・つみれ・タタミイワシ・缶詰・黒蒲鉾など加工品も多く、食卓に登場する機会が多い魚である。
栄養素が豊富で、近年、健康食品として脚光を浴びている。イワシに含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は生活習慣病に効果がある。
旬は一般的に秋、8月から10月にかけてとされている。関東では、入梅頃のイワシを「入梅イワシ」と呼び、特に美味だとしている。
昔は養殖魚の飼料にされるほど大量に獲れたが、近年漁獲量が激減している。

選び方
ウロコがたくさんついていることが鮮度の決め手。ウロコがびっしりついて、体に張りと光沢があるもの、体の斑点がはっきり見えるもの、目が澄んでいて、エラが鮮やかな赤色のものを選ぶ。腹がしっかりしていることも大事。
やせたものは脂がなくておいしくないので、小さくても太ったものを選ぶ。具体的には、よく太り、頭が小さく見えるものを選ぶ。頭が大きく見えるものはやせている。

料理の例
「イワシ百珍」と言われるほど多様な料理に登場する日本の伝統的な食材の一つ。
新鮮なものは刺身や酢の物、タタキ、握りずしなどに。身がやわらかい魚なので、包丁を使わずに指先で手開きにするとよい。その他、煮つけ、塩焼き、フライ、から揚げ、竜田揚げ、南蛮漬け、蒲焼き、つみれ汁など。
また、千葉県勝浦市の「さんが」や石川県輪島市の「こんか漬け」「おからずし」など、産地には様々な郷土料理が伝わる。
足の早い魚。生臭さを抑えるためには、手に入れたらすぐに下ごしらえをする。また、香味野菜や香辛料を上手に使うのも手。

地域名・別名
いわし(一般)、おおいわし(近畿・九州・壱岐)、ななつぼし(東北)、ひらいわし(瀬戸内)、ぎんむし(高知)、こちゅうば(千葉)、ひら(宮城)、ひらご(大阪・和歌山・瀬戸内海・高知)、やし(福島)

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きちじ(きんき)(喜知次/吉次)

標準和名はキチジだが、キンキと呼んだ方が馴染み深い。キチジは「吉事」とかけられ、昔から東北や北海道でめでたい席に出された。
全身が鮮やかな朱赤色で、頭が大きく、背ビレのトゲの後ろの部分に大きな黒紋がある。本州中部以北から北海道、オホーツクにかけて分布している。特に三陸から北海道の海域に多くいる。
深海魚特有の淡白さと、たっぷりの脂肪があいまってのおいしさがこの魚の身上。肉質は白身でやわらかい。また、生活習慣病の予防に効果のあるドコサヘキサエン酸(DHA)・エイコサペンタエン酸(EPA)を豊富に含んでいる。
かつては宮城の名産・笹かまぼこの原料になるほど多く獲れ、下魚扱いだったが、底引き網による乱獲などのため数が激減し、今では高級魚になってしまった。そのため、近縁種のアラスカキチジなどの冷凍ものを粕漬けにしたものが比較的安く出回っている。
秋から冬にかけてが旬。

選び方
目が澄んでいて、きれいに張っていて、落ちくぼんでないものを選ぶ。
鮮度のいいものは、体の色がみずみずしく、鮮やかな朱赤をしていて、背ビレの黒い斑紋もくっきりと見える。ぬめりが透明なものを選ぶとよい。
体色が白っぽくなっているもの、ぼやけているもの、エラの部分がにおうものは鮮度が落ちている。
切り身の場合は、身の透明感を見る。

料理の例
キチジの極めつけは干物。一夜干しや開き干しといった干物にすると、独特の甘みが増す。大きめのキチジで作るとおいしい。また、粕漬けも人気がある。干物や粕漬けにすると、保存が効く上に身が締まり、白身の味が生きてくる。
煮物、焼き物が定番の調理法。頭やヒレのまわりもおいしいので、尾頭つきの煮つけにするとよい。
その他、から揚げ、揚げ煮、蒸し物、鍋料理、ブイヤベースなど。鮮度のよいものは刺身や寿司だねにすることもある。

地域名・別名
きんき(関東)、きんきん、めいめいせん、めんめ(北海道)、めいせん(岩手)、あかじ(千葉・茨城・福島)、あすなろ(神奈川)

まさば(真鯖)

真鯖

昔から庶民の魚として広く食されてきた。脂ののったサバは秋の味覚の代表。イワシやサンマ、アジと並ぶ典型的な「青背魚」である。
一般にサバと呼ばれるのは、マサバとゴマサバの2種。ゴマサバの旬は夏(マサバの味が落ちる夏でも味が落ちないので、特に夏に珍重されている)。マサバの漁期は春と秋の2回だが、最もおいしくなるのは10月から12月初旬にかけて。春の産卵を終えて餌をたっぷり食べ、秋から冬にかけては脂がのり(夏には数パーセントの脂肪分が、秋から冬にかけて20%ぐらいに増える)、リジンやグルタミン酸、イノシン酸などのうまみ成分が増え、昔から「秋サバは嫁に食わすな」と言われるほどおいしくなる。
しかし、うまみ成分が多いだけに、「サバの生き腐れ」と言われるほど鮮度が落ちやすい。生食できるものは漁港近辺でないと入手は難しく、昔から生食にはあまり使われなかった。一方で、そのために、締めサバ・サバ缶・塩サバ・文化干し(開き干し)など、種類豊富な加工品が誕生した。
近年、ノルウェーなどから大量のタイセイヨウサバが輸入され、加工品にもなっている。豊予海峡で一本釣りで漁獲されるマサバは、強い流れで身が締まり、非常に美味とされており、その出荷にいたるまでの品質管理も含め、「関サバ」というブランドとして高値で取引されている。

選び方
サバは鮮度が命。色鮮やかで、魚体がピンと張り、身に弾力があり、皮にツヤがあるもの、目が澄んで、エラが赤くきれいなものが新鮮。
腹が虹色に光り、硬く、金色の筋が1本横腹に浮いているものがよい。模様が鮮明に出ているものが新鮮。
また、身の太っているものが脂がのっている。
最も味がよいのは、体長が40cmくらいで、1kg前後のものとされる。
切り身の場合は、血合いの色のよさを見るとよい。

料理の例
酢で締めた締めサバや塩焼き、味噌煮が代表的な総菜料理。その他、竜田揚げ・柚子の香りを加えた幽庵焼き・焼いた後に大根、ねぎと煮る船場汁なども。
特有の生臭みは薬味や調味料を使うとおいしく食べられる。煮る時はしょうがやねぎを加えるとよい。
締めサバは寿司だねにもなり、押し寿司であるサバ寿司(京都の棒寿司、大阪のバッテラ)も有名。その他にも、へしこ(ぬか漬け)など、各地で郷土料理に使われている。
新鮮なものは刺身も美味しいが、寄生虫に注意する。

地域名・別名
さば(関東)、ほんさば(関西)、さぼ(秋田)、さわ(富山)、たっくり(鹿児島)、ひらす(長崎)、せきさば(大分・佐賀関)、ひらさば

まはぜ(真鯊/真沙魚)

真鯊

ハゼ釣りは秋の風物詩として知られる。夏から釣りの対象になるが、味がよくなるのは秋から冬にかけて。
ハゼの仲間は多種多様だが、一般に「ハゼ」と言えばマハゼを指す。体の前部は円筒状、後部は横から左右に押しつぶしたような形で、背びれ・尾びれに明瞭な黒い斑点がある。白身で淡白。
釣りの大衆魚である。日本全国の内湾の浅瀬や河口に生息し、餌に貪欲に食いつくため、大人から子どもまでハゼ釣りを楽しめる。秋の彼岸の頃にはハゼ専門の釣り船も出るほどの賑わい。汚染に強く、都市近郊で釣ったものでも臭みが出にくい特徴がある。
釣り人が釣果を楽しむのがほとんどで、鮮魚として店頭に並ぶことはあまりない。他は、天ぷら店や佃煮店に卸される。

選び方
体に光沢と張りがあり、腹がしっかりしているものを選ぶ。
うろこのしっかりしているものが新鮮。色があせておらず、飴色がよく出ているものがよい。

料理の例
釣りたての鮮度のよいものは、刺身やあらいに。
最も一般的な食べ方は天ぷら。ほっこりと甘い。ハゼは、メゴチ・シロギスとともに江戸前天ぷらの種として有名。
また、腸をとって軽く干してから焼き、じっくりと煮た甘露煮は、東京のお正月料理に欠かせない。
その他、南蛮漬けなどにも。
加工品である焼きハゼ(ハゼの焼き干し)は、とてもよい味が出るため、仙台や山陰の中海地域などでだし取りに使われている。仙台では特に、正月のお雑煮に使う。

地域名・別名
はぜ(一般)、ぐんぐ(秋田)、けたはぜ・できはぜ(東京)、かじか(宮城)、かわぎす・ぐず(石川・富山)、かまごつ(鳥取)、くそはぜ(長崎)、イーブー(沖縄)

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ししゃも(柳葉魚)

北海道の太平洋側にのみ分布する日本固有種。アイヌの人たちが食べていた魚で、全国的に食されるようになったのは戦後になってから。凶作に苦しむアイヌの人たちが神に祈ったところ、柳の葉が川に散って魚になったという伝説がある。アイヌ語で柳の葉を意味する「シュシュハム(ススハム)」が訛って「シシャモ」になり、それがそのまま和名になったとされる。
国産のシシャモは、秋が旬。「ししゃも荒れ」と呼ばれる木枯らしが吹き始める10月〜11月に漁が行われる。短い季節漁で、秋から冬への風物詩と言える。
肉質はオスの方が美味しいが、メスは卵を持っても脂が落ちないので、子持ちシシャモとして人気がある。
卵を持ったメスを獲るため、また環境悪化などの影響で、北海道産のシシャモは激減した。そのため大変珍重されており、価格も上がっている。現在出回っているもののほとんどは、カナダ・北欧・ロシアなどから輸入されたカラフトシシャモである。味はシシャモよりあっさりしている。国産のカラフトシシャモは晩春から初夏が旬。
現在、シシャモの漁獲量回復のために、さまざまな努力がなされている。

選び方
皮がヌルッとしておらず、さらりとした感じのするものが鮮度がよい。太っているもの、身の締まったものが良品。
大振りで、腹が張っているものは卵が充実している。
国産シシャモは全体に飴色をしていて、尾ビレ・腹ビレが大きくて丸く、カラフトシシャモより丸みがかっている。輸入物のカラフトシシャモは全体に青白く、鱗が小さく、シシャモよりほっそりしている。
日本では子持ちのメスばかりが珍重されるが、身が大きく美味で、価格も安いオスも捨てがたい。

料理の例
ほとんどが干し物の冷凍物。軽く焼いて食べるのが一般的で、おいしい。解凍してから焼くと卵がはじけやすくなるので、凍った状態のまま、あぶる程度に、火を通しすぎないように焼くのがコツ。身にみずみずしさや風味が足りない場合は、酒を少しふって焼くとよい。
その他、フライ・天ぷら・から揚げ・南蛮漬けなどにしてもよい。
生の冷凍物が手に入ったら、そのまま薄造りのルイベ(凍ったまま切って食べる)にするとおいしいという。北海道では押し寿司にもする。また、産地で食べる刺身は、たとえようのないうまさだという。

地域名・別名
すしゃも、すさも、すさむ

いせえび(伊勢海老/伊勢蝦)

伊勢海老

豪華な甲殻を持ち、姿形がよく、祝いの席や正月の飾りに用いられるなど、慶事には欠かせない食材。長寿や武勇のシンボルでもある。かつて伊勢湾で多く獲れたので、この名がついたと言われる。
本州中部以南の太平洋側、朝鮮半島南岸、台湾などに分布し、水深10〜30mくらいの岩礁を棲みかにしている。昼間は岩穴の中などにおり、夜間に餌を求めて行動する夜行性。体長は30〜50cmくらいになる。
漁獲量は少ない。個体数が減少しているため、禁漁期や禁漁区、漁具の制限などが行われている。養殖はなく、カノコイセエビなどが代用されるほか、最近では韓国・台湾・カリブ海・オーストラリア・ニュージーランドなどから近縁種が多く輸入されている。
旬は秋から冬。資源保護のため産卵期である夏場は禁漁で、出回るのは秋から冬にかけてである。

選び方
生きているものを入手する。(死ぬとすぐに傷み出す。)活物でもぐったりしているものは良くない。よく動き、手でふれると強く跳ねるようなもの、しっぽを内側に丸めているものが新鮮。
殻が厚くて硬く、身が太っているものを選ぶ。ヒゲと脚がしっかり張って、殻の赤みの強いものが良品。裏側がピンク色のものは甘みとコクがある。
赤黒いものが国産、明るい赤は外国産であることが多い。腹の周りにまだらの模様があるものは、外国産のミナミイセエビ類やオーストラリアイセエビ。

料理の例
刺身・焼きもの(縦に割って焼いた「鬼殻焼き」など)・蒸し物など和風の料理、グラタン・ブイヤベース・クリーム煮など洋風の料理にも合う。見た目にも豪華な料理が楽しめる。
刺身にすると甘みがあり、ぷりぷりとした弾力が楽しめる。味のよい高級食材として代表的なものである。

地域名・別名
かまくらえび、ほんえび、ぐそくえび

めばち(眼撥)

日本人が大好きなマグロには、クロマグロ・メバチ・キハダ・ビンナガ・コシナガなどがあり、その1つである。目がパッチリと大きいのが「メバチ」の名前の由来。標準和名はメバチだが、一般にはメバチマグロといった方が通りがよい。
高速遊泳魚特有の銅が著しく太い紡錘形で、尾の付け根が極端に細く、尾ビレは三日月形をしている。世界の温帯から熱帯の海洋に広く分布。日本では太平洋側の沖合にいるが、日本海にはいない。
マグロの中では、クロマグロ(ホンマグロ)に次いで色合いが濃く、鮮やかな赤色で肉もやわらかく、美味。脂肪分は他のマグロ類に比べると少ない方でさっぱりしているが、その割にうまみは濃厚で味わい深い。
クロマグロの漁獲が難しくなるのに従い、刺身や寿司だねなどに代用品として使われることが多くなった。資源量が多いこともあって、クロマグロやミナミマグロと比べて値段は数段安く、庶民のマグロとして人気がある。消費量はマグロの中で最も多い。缶詰などの加工品にもされる。
旬は春と秋。

選び方
冷凍品が主流。
サク取りされたものなら、筋が等間隔で、まっすぐなものを選ぶ。
メバチはさっぱりした脂が特徴なので、鮮紅色で透明感があり、しっとりした光沢のあるものがよい。
赤身は水っぽくないもの、鮮やかな紅色をしているものを選ぶ。トレーに赤い汁がたまっているものは解凍がかなり進んでいる証拠で、味は確実に落ちている。
マグロの赤身は酸化しやすいので、できるだけサクで求め、食べる直前に切るようにしたい。

料理の例
刺身や寿司だねとして大いに喜ばれる。また、山かけ、ネギトロ丼、ネギマ汁など用途は広い。
総菜にはみそ漬けや照り焼きなどが定番。づけ焼きやしょうが焼きにも。大きサク取りしたものなら、ステーキ感覚で扱うのもおいしい。

地域名・別名
ばち(仙台・東京・神奈川・豊橋・高知)、めぶと、めっぱち、だるま(静岡)、だるまめじ(若魚)、いもしび(高知)、しび(沖縄・三重)、そまがつお(大阪)

参考文献
「食材図鑑 魚」 佐藤魚水 監修  永岡書店、1997年
「スーパーで買える魚図鑑」 セマーナ 編  日本文芸社、2002年
「さばきもわかる食材魚図鑑」 池田書店編集部 編  池田書店、2008年
「旬を味わう 魚の事典」 坂本一男 監修 ナツメ社、2008年
「旬の食材 秋の魚」 講談社 編  講談社、2004年