特集

コーヒーとエコツーリズム タンザニア キリマンジャロ山麓

山口由美 (旅行作家)
2009年08月18日 火曜日
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はてなブックマーク - コーヒーとエコツーリズム  タンザニア キリマンジャロ山麓

朝のキリマンジャロ。

朝のキリマンジャロ。

赤道直下の白き名峰

 標高5895m、アフリカ大陸の最高峰が、キリマンジャロです。赤道直下でありながら、年間を通して山頂には白い氷雪を見ることが出来ます。
 眺望ならば、ケニア側のアンボセリ国立公園からがいいという説もありますが、山があるのはタンザニア、登山の拠点となるのも、タンザニアのモシという町です。私は、以前、アンボセリからもキリマンジャロを見たことがありますが、今回、山麓の村から見た景色のほうが、ずっと山を間近に感じることが出来ました。
 キリマンジャロには、シラ峰、キボ峰、マウエンジ峰と三つの山頂がありますが、最高峰はキボ峰。またの名前をウフル・ピークと言います。ウフルとは「独立」の意味。ここには、タンザニアの初代大統領ジュリアス・K・ニエレの言葉が刻まれたレリーフがあります。
 「我々は、彼方国境に輝くキリマンジャロ山頂に灯火をかかげよう。絶望あるところに希望を、憎悪あるところに尊厳を与えるために」
 富士山と同様、山脈に連なることなく、大地にすっくとそびえたつ単独峰の雄雄しさは、1960年代、アフリカの植民地支配が終焉し、独立国家の誕生が相次いだ時代、希望の象徴でもありました。

フィリップとの出会い


ロッジのオーナー、フィリップ。


皆が「ビッグママ」と呼ぶフィリップの母親。

 今回の宿、マウント・キリマンジャロ・ロッジとの出会いは、インターネットが引き寄せた縁でした。キリマンジャロの眺望がいい宿を探していた私は、グーグルにキーワードを入力。すると、フィリップの経営する「マウント・キリマンジャロ・ビュー・ロッジ」のホームページが出てきたのです。

 日本から突然、舞い込んだメールを見て、フィリップは驚くと同時に嬉しかったと語ります。かつて、彼の村には、日本の鹿島建設が来て道路建設を行ったことがあり、フィリップは、その縁で来日。しばらく日本で働いていたことがあります。空港で私たちを見つけるや否や、再会する友のように抱きついてきたのには、そんな経緯があったのでした。2007年にロッジを開業して以来、「日本から来た初めてのグループ(以前、一人だけ宿泊者があったとか。今回は、私とカメラマン氏の二人でした)」だと、興奮気味に話してくれました。
 フィリップの口癖は、「何千もの物語を知っている」でした。とりわけ、自分の国であるタンザニアの話、自分の部族であるチャゲ族の話、そして、キリマンジャロの話になると、口調に熱がこもります。 

キリマンジャロのいわれ

夕暮れのキリマンジャロ。雲海の下に熱帯雨林の森が広がる。

夕暮れのキリマンジャロ。雲海の下に熱帯雨林の森が広がる。


夕暮れのキリマンジャロを背景にコーヒータイム。サービスするのはロッジのマドンナ、フローラである。

夕暮れのキリマンジャロを背景にコーヒータイム。サービスするのはロッジのマドンナ、フローラである。

 ガイドブックには、キリマンジャロとは、スワヒリ語で「Kiliは丘、njaroは輝く」の意味などと説明されていますが、フィリップが言うには、山の麓に生きるチャゲ族には、言葉の方言の数だけ、キリマンジャロの名前のいわれがあるといいます。
 彼らの部族に伝わる意味は「私たちの山」。キリマンジャロの話をする時、フィリップが見せる誇らしげな表情は、それが「私たちの山」であるからなのでしょう。
 「私たちの山」が姿を見せるのは、夜明け後と、夕暮れ前。それまで山を覆っていた雲が、不思議と、その時刻になると消えて、まばゆい威容が姿をあらわします。山と共に生きる彼らは、山の天気のご機嫌もよく知っているのでしょう。山頂の白い雪は、地球温暖化の影響でずいぶん減ってしまったといいますが、雲海の上にそびえたつ姿は、荘厳そのものでした。

コーヒーの里の苦悩

コーヒーの収穫。

コーヒーの収穫。


コーヒーの皮をむく作業。


皮をむいたコーヒー。これを乾燥して焙煎する。

 そして、もうひとつ、キリマンジャロといえば有名なのがコーヒーです。ロッジのある村、シンブウェでもコーヒーを生産しています。キリマンジャロのコーヒーは、大規模なプランテーションによるものと、小規模な農家によるものがあり、シンブウェ村のコーヒーは、後者に当たります。
 しかし、大規模なプランテーションも、小規模な農家も、最近は、コーヒー生産に積極的ではないといいます。理由は、コーヒーの買い取り価格の下落です。以前は、1kg当たり1US$だったのが、最近では、わずか0.1US$。1kg当たり0.2US$は原価がかかるそうで、これでは、儲けがないどころか、生産するだけ損をしてしまいます。そのため、プランテーションは花のハウス栽培に、小規模農家は野菜栽培に転換するところが多いのだとか。山と共にその名を知られるキリマンジャロ・コーヒーにこんな事態がおきているとは。
 「だから、泣く泣くコーヒーの木を切っているんだよ。なぜそんなことになるかって、コーヒーの仲介業者が利益を取りすぎるからだ」
 フィリップは、深刻な表情で訴えるのでした。

ロッジを開業した理由

ロッジの客室。いかにも手造り風の絵がかわいい。

ロッジの客室。いかにも手造り風の絵がかわいい。


客室の内部。自家発電の電灯と温水シャワー、水洗トイレ完備。


村の名前、シンブウェは、分厚い唇のムシンバという男の名前に由来する。漫画さながらの絵があった。

 もともと麓の町、モシで旅行会社を経営していたフィリップが、生まれ故郷のシンブウェ村にロッジを開業した理由は、そうしたコーヒー生産の不振が背景にありました。観光業で村に現金収入をもたらせたかったと彼はいいます。実際、ロッジで人を雇用するだけでなく、収益の一部は、村の病院や学校運営の資金、孤児の救済などに使われているそうです。
 初日、ロッジに到着したのは午後九時半過ぎでした。それなのに、ロッジのスタッフは総出で私たちを迎えてくれました。ちょっと恥ずかしそうに、一人一人が、名前を言って握手を求めます。自家発電の薄暗い電灯の下で、遠方からの客人を迎えて本当に嬉しいという、賭け値なしの笑顔が輝いていました。
 そして、とりわけ生真面目な瞳が印象的だったジョンが、翌日、私たちのガイドとなったのでした。

ロッジのエントランスとガイドのジョン。日本びいきのフィリップらしく「OKAERINASAI(おかえりなさい)」の日本語が。

ロッジのエントランスとガイドのジョン。日本びいきのフィリップらしく「OKAERINASAI(おかえりなさい)」の日本語が。

移動の基本は「歩き」


滝への道のり。カメラバッグを背負って歩くジョン。


滝にて。ポーズをとるのは、ツアーに同行してくれた村の防犯係(国のライセンスがちゃんとあるらしい)。大名旅行のように村人を引き連れて歩いた。

 村一番の景勝地であるムナンベの滝を訪れ、そして、フィリップの生まれ故郷の集落に行って、コーヒーの収穫の仕方を見学し、チャゲ族のダンスを鑑賞する。フィリップ推薦の一日コースは、お手軽な観光のようでいて、ひとつ、落とし穴がありました。
 当然のごとく、すべての行程は「歩き」であること。後で聞いたらコースの全行程は約7km余り。標高2800mのロッジ周辺は起伏もあり、結構、健脚向けのハイキングコースです。
そう、アフリカでは、「車に乗る」のは特別なことで、人の移動の基本は「歩き」なのです。そういえば、ロッジの滞在費で最も経費がかさんだのが、空港とロッジの車送迎でした。そんなロッジのエコツアーを車で行こうなんて、ゆめゆめ考えてはいけなかったのです。
 ハイキングのためのハイキングではなく、村の生活を体感する結果としてのハイキング。ジョンは、滑りやすい道になると、私の手をしっかりと握ります。それは、手がちぎれるのではないかと思う程の握力でした。

チャゲ族のダンス。女たちを中心に男たちも加わって踊りの輪になる。

チャゲ族のダンス。女たちを中心に男たちも加わって踊りの輪になる。

「誇り」としてのエコツーリズム


村の子供たち。


主食となるメイズ(とうもろこし)。

 その手の感触に、私は、かつてパプアニューギニアのある村で、森を案内してくれた村長の弟を思い出していました。ボートでアクセスするしかない辺境の海辺の村。しかし、村長の弟は、自分たちの村をエコツーリズムで盛り立てようと必死でした。私が日本人の旅行作家と知るや、私の手をむんずと掴み森に向かいました。自慢の極楽鳥を見せてやる、絶対に見せてやると。その時の手の感触が、ジョンにつながりました。
 そう、これが本当のエコツーリズムなのです。
「マウント・キリマンジャロ・ビュー・ロッジ」にあったのは、それがエコツーリズムであるかどうかを考えるまでもなく、ただ「私たちの山」の森を、滝を、コーヒーを、遠来の客に見せることの「誇り」でした。
別れ際、スタッフ総出で歌ってくれた、即興のユミの歌とタケシ(カメラマン氏の名前)の歌。いつか、また彼らに会いに行きたいです。

マウント・キリマンジャロ・
ビュー・ロッジのウェブサイト

http://www.mtkilimanjaroviewlodge.com/

別れの歌。中央の日本人が著者です。

別れの歌。中央の日本人が著者です。

山口由美

1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。海外旅行とホテルの業界誌紙のフリーランス記者を経て作家活動に入る。旅とホテルをテーマにノンフィクション、小説、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆している。日本旅行作家協会会員。日本エコツーリズム協会会員。

関連記事
マンハッタンと呼ばれた島 北マリアナ諸島[テニアン]
http://www.bionet.jp/2009/05/tinian/

石器時代からやって来た島 パプアニューギニア
http://www.bionet.jp/2009/01/papuanewguinea/

タンザニアへTo Tanzania Singita Gurumei Reserves
http://www.yumiyamaguchi.com/
ヌーの大移動の様子が紹介されています。

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  1. 山口由美さんからのコメント

    2009/8/24(月)17:03

    かずさん、コメントありがとうございます。
    そうなんです。ヌーの大移動もものすごい迫力でした。
    ヌーは年間を通して、広大なサバンナを環を描くように移動を続けます。ケニアのマサイマラが有名ですが、ケニアを通るのは、ほんの短い間だけで、この大自然の驚異のほとんどは、タンザニアが舞台なのだそうです。

  2. かずさんからのコメント

    2009/8/19(水)04:40

    すごいスケールですね。アドレスが入っていたので、このホテルにも、直接アクセスしてみました。また、山口さんのホームページにもアクセスし、キリマンジェロの前に行かれたヌーの大移動の記事も読みました。
    そのすべてが新鮮で、とてもいい記事でした。本も買って読んでみようと思います。

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