森里海の色
柿木村の一輪挿し「イカリソウ」

錨草

裏庭の片隅に植えているキバナイカリソウが今年も花を咲かせた。
どう見たってそんなに怒っている風ではない。
薄黄色の可憐な花弁は寧ろ穏やかで見る者を癒してくれる。

イカリは怒りではなくてその姿形が錨に似ているから来たものだという。
華奢な茎の先で春の風に揺らいでいる姿は穏やかな波に揺蕩う小舟のようだ。

古くからの友人の陶芸家に頼んでいた一輪挿しが出来上がってきたのでそれに活けた。
マットな仕上がりの薄黄色の花器にイカリソウの薄黄色が自然に溶け込み
玄関の中で小さな宇宙が輪廻している。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。