特集

家にやってくる野鳥の話【益子義弘】

2009年07月28日 火曜日
スケッチ:文 益子義弘

スケッチ:文 益子義弘

東京から少し郊外の、かつて丸裸だった土地にも木々が繁るようになってから、冬にはいろいろな野鳥が来るようになった。
 乱暴者のヒヨドリや群れるムクドリはいうまでもなく、スズメ、メジロ、ウグイス、シメ、ツグミ、シジュウカラ、ヤマガラという常連に加えて、時にはコゲラやアオゲラが姿を見せる。
いくつかの餌台に二、三種のエサを置くと、違う小鳥が適当な間を開けてやってくる。折々に家内が付けた記録によれば、優に30種類を越えた。
 ぼくらのような郊外の環境でなくても、以前に設計した都心の家のテラスにもけっこう野鳥が来ると聞いた。
一か所の大きな森や林ではなくて、点々と渡り歩ける場所があるのがいいようだ。
益子義弘エッセイ0402 そんな冬枯れの外を賑わせてくれた鳥たちも、春の芽吹きとともに大半は山に帰る。それで静かになるかといえば、別のことでこちらの気持ちがせわしなくなる。梢にいくつか掛けた巣箱に、近くに居残ったシジュウカラが巣作りを始めるからだ。
 春先の営巣がしばらく続いて、抱卵の時をすぎ、ヒナが孵ってからは頻繁なエサ運びが始まる。最初のうちは小虫。それがヒナの成長とともにだんだんと大きな青虫に変わり、一度30分だけ観察してその回数を数えたら15回を越えた。
その数日後にはほぼ一分おきになって、それを一日の活動時間で数えれば優に5〜600匹を越える勘定になる。半分としても300匹だ。
 そうなればもう巣立ちが近い。ひとつの巣箱はアトリエの窓のすぐ前にあって、ヒナの巣立ちの瞬間を見届けたいから、おちおちと図面など引いていられなくなる。
益子義弘エッセイ0403 今年は餌を運ぶその頻度が異常だった。せっせと運ぶ親鳥の羽の色つやも次第に落ちて、それでも頑張る姿が健気だった。
 それがある日を境にパタリと消えた。机を離れている間に巣立ってしまったのだろうか。でも何か気配がまだある。
あえて親がエサ運びをやめて、巣立ちを促す仕組みかもしれない。二三日経ってそれも静かになった。
 家内と相談して、そっと巣箱の蓋を開けてみることにした。
そこに、成長した八羽ものヒナが折り重なるようにして息絶えていた。番(つがい)の親が二羽ともに事故にあったとは思えない。八羽なんてたくさんの子育てに疲れてしまったのか。
 この春の、痛ましい事件だった。

益子義弘(ますこよしひろ)

 
1940年 東京に生まれる。1964年 東京藝術大学建築科卒業。1966年、同大学院修了。
吉村研究室助手を経て、永田昌民とM&N設計室を開設し、建築家として活動。
東京藝術大学名誉教授。「益子アトリエ」を自宅敷地内に構える。

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