旬のコラム

ブラジルの美しい網戸

建築家 郡 裕美
2009年07月14日 火曜日
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ブラジルの網戸

サンパウロからアマゾン方面へ北上し、サルバドールというブラジルの古都からさらに船で1時間。夢のように美しい砂浜のあるイタパリカ島につく。そこに住む建築家、ペスカリーニョ氏の自邸を訪ねた時のことだ。

外観

ペスカリーニョ邸外観

鯨の脂を貯蔵する古い蔵の外観。生い茂った植物と一体化した住まい。

鯨の脂を貯蔵する古い蔵の外観。生い茂った植物と一体化した住まい。


海岸沿いに建つその住まいは、オモテからは鬱蒼としたジャングルしか見えない。白い門扉を開け、露地を進むと、鯨の脂を貯蔵する古い蔵に、増築に増築を重ねたユニークな建物があった。ブラジル各地から集められた古材がそこここに使われ、ユーモアに富んだ自作の家具が設えてある。サロン、応接室、書斎と歩を進めるごとに次々と個性的な空間が展開する。

応接室:一段上がったところがゲストルームになっており、緑の網戸で仕切ら れている。巨大な蝿帳、または、作り付けの蚊帳のようで妙に落ち着くいい感じの部 屋だった。

応接室/一段上がったところがゲストルームになっており、緑の網戸で仕切られている。巨大な蝿帳、または、作り付けの蚊帳のようで妙に落ち着くいい感じの部 屋だった。


リビングルーム/ジグザグに曲がった大開口は、緑色の網がぴんと張られていた。

リビングルーム/ジグザグに曲がった大開口は、緑色の網がぴんと張られ ていた。

その網戸に出会ったのは、リビングルームに足を踏み入れた時だ。大きくジグザクに広がる窓に、緑色の網がピンとはられ、その向こうに鬱蒼とした南国の木々が見える。部屋の空気は緑色に染まり、風景と室内が渾然と一体化し、不思議な空間層に紛れ込んだようだった。緑の庭の風景に、さらに緑色の網目のオーバーレイをかけることで、不思議な視覚効果が生まれていた。景色は立体感を失っているのに、ジャングルの香りが室内に充満しているのだ。ペスカリーニョ氏は、冬でも窓ガラスなしで、この網だけで過ごすらしい。
ここからは、美しい海が一望できる。最上階にある昼寝コーナーに座る建築家 のペスカリーニョ氏。建築家として仕事をしながら、サルバドールの大学で建築設計を教えている。

ここからは、美しい海が一望できる。最上階にある昼寝コーナーに座る建築家のペスカリーニョ氏。建築家として仕事をしながら、サルバドールの大学で建築設計を教えている。

普段、私たちが住宅の設計をする時、網戸は、ともするとデザインの邪魔になる厄介者だ。でも、このペスカリーニョ邸では、網戸は、新しい空間を作る立役者として積極的なデザイン要素になっていた。こんな網戸の使い方もあるのだと合点した。

郡 裕美(こおり ゆみ)

1960年愛知県生まれ。京都府立大学生活科学部住居学科卒業。アルテック建築研究所を経て、1986年、MYU(みゅう)設計室設立。1991年一級建築士事務所スタジオ宙(みゅう)に改称。株式会社スタジオ宙を設立。1994年コロンビア大学建築学科修士課程修了。同大学建築学科准助教授就任に伴い、1996年ニューヨーク事務所を開設。同年、資本金1000万円に増資。空間を体験した人がその美しさ、楽しさに感動できる建築をめざし、住宅、マンション、店舗、公共施設の設計の他、古民家再生、町並みデザインを手がける。また、アートと建築の融合を目指し、パブリックアートの企画運営をするなど、多岐に渡って精力的な空間創造活動を行い、国内外の様々な建築賞を受賞。

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