興味津々
興味津々・No.069
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雨戸の猿図「日本人の住まい」より
早暁に起きだし、窓を開けて、透明な空気を吸いながら原稿を書くのが日課になっている。時間を追いながら、外の物音が変化することに気づく。これは季節によって、天候によって異なるので、「決まって」ということにはならないが、早暁に散歩する老夫婦の交わす会話が、風にのって耳に入ってくる▼この老夫婦の会話は、ばあさんの方が決まって愚痴をいい、じいさんが「それはそうだろうけど」と宥め賺すのが毎日のパターンである。ばあさんは感じたことを口にする人で、じいさんは忍耐の人である。耳にする会話は少ないけど、どうも嫁さんの話らしい。朝から聞きたい話ではないけど、この老夫婦が家の前を通ると、どういうわけか耳が敏感になる。顔を見たいと思うけれど、誰も聞いていないと思って喋っているので、邪魔をしてはいけないと思っている▼めずらしく、ばあさんの声が朗らかであったりするとホッとする。この老夫婦の散歩、いつまで続くのだろうと想像すると、その後の片割れの暮らしを思ってつらくなる。一人になっても散歩するのだろうか、無言の散歩になるんだろうな・・・▼家の前を、この老夫婦が通過して間もなく、新聞配達人がやってきて、隣家のポストに新聞が投げ入れられる音が耳に入る。その音が耳に快い。わが家に届けられる新聞は、それからだいぶ遅れる。それは配達ルートの違いなのか、勤勉さの違いなのか、などと思ったりする。夜明けのインクのにおいは、いち早く嗅ぎたいクチなので、そんなことが脳裏をかすめる。かといって、新聞店に電話を掛けて文句を言うほどのことではない▼近くに高速道路が通っていて、風に乗って、その音は絶え間なく耳に入る。近くといっても500メートルも離れているので、雨の日や、日中は聴こえないが、空気の澄んだ朝には耳に煩い。わたしの朝の一番耳障りな音である▼子どもの頃、朝の始まりは雨戸の木栓の音で始まった。雨戸の開け閉めが、子どものわたしの仕事だった。木栓は高い位置にあるので、幼い頃は台を置いて、次には背伸びして木栓に手を延ばした▼この木栓は猿錠(さるじょう/略称はサル)と呼ばれ、雨戸の木枠上部と下段の桟とを貫く垂直の木栓をいう。雨戸を閉めるときはこのサルを押し上げ、それがずり落ちないように別の木栓を填める。開けるときは、それを外して落とし込む。このサルは、最後に閉める雨戸に取り付けられるので、それを施錠すると、前の雨戸はすべて固定された。「フランス落とし錠」に似ているが、日本的なものだと思う。▼どういうわけか、わたしはこの猿錠がカタンと落ちる音を好んだ。雨戸を開け閉めする音は家中に響くが、サルを落とす音は、自分だけの音だと思ったからだろうか▼そうそう、わが家の朝は猫の鳴き声があることを忘れていた。わたしが起き出すと、決まって一緒に起きて、みゃーみゃーと鳴きだす。そして、わが家で一番早い朝食を口にするのだった。






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