びお・七十二候

腐草為蛍・くされたるくさほたるとなる

2009年06月11日 木曜日

腐草為蛍

腐草為蛍と書いて、くされたるくさほたるとなる、と読みます。腐った草が蒸れて、蛍になるというのです。文化5年に発行された『改正月令博物筌』によれば、「腐草はくされたる草なり。暑さに蒸されて蛍を生ず」ということだそうです。つまり、螢は腐った竹の根や、腐った草が蒸れて蛍に化したものだと考えられていたというのです。
ホタルの語源は、〈火垂る〉〈火照る〉〈星垂る〉〈火太郎〉など、いろいろな説があります。いずれも光るものを指しています。では、蛍はどうして光るのでしょうか?
蛍は、幼虫にも発光器を腹節にもつものが少なくありません。さなぎにも発光器があって発光するのです。
平凡社の『世界大百科事典』では、

発光器は透明な表皮、発光細胞からなる発光組織、その奥の反射層からなり、発光組織には気管と神経が網目状に入りこんでいる。発光細胞にはルシフェリンという発光物質とルシフェラーゼという酵素があり,この酵素の働きでルシフェリンが酸化するときに光を放つ

と説明されています。
蛍20日に蝉3日 といわれます。旬の時期が短いことの喩えです。「蛍の光 窓の雪」ともいわれます。夏はホタルの光で、冬は雪明りで勉強するというのです。苦学なんて言葉は死語になっていますが、この歌はみんな知っています。「君が代」に似ていて、あまり意味を解さずに歌っている人が少なくありません。
蛍は、幾多の俳人によって詠まれています。

草の葉を落るより飛ぶ蛍哉[芭蕉]
己が火を木々の蛍や花の宿[芭蕉]
ほたる飛や家路にかへる蜆売[蕪村]
大蛍ゆらりゆらりと通りけり[一茶]
人殺す我かも知らず飛ぶ蛍[前田普羅]
山中の蛍を呼びて知己となす[飯田蛇笏]

どの句も名句です。きょうの句は、よく知られる子規の句です。

人寝ねて蛍飛ぶなり蚊帳の中

もう蚊帳(かや)を知っている人も少なくなりましたが、小さい頃、母と一緒に蛍狩りに行って、電気を消して、その蛍を蚊帳の中に入れたときの、幻想的な世界を忘れることはできません。光っては消え、消えたかと思うと光って、それが蚊帳の中を泳ぐように移動するのです。
網戸で蚊の侵入を防ぎ、入ってきた蚊をベープマットで駆逐するより、蚊帳は、何とも風情があってよかったなぁ、と思います。蚊帳は、風は通しますが、虫は通しません。みんな戸を大きく開け放って過ごしていました。それで恐くはありませんでした。

蚊帳といえば、一茶にたくさんの句があります。

新しき蚊屋に寝るなり江戸の馬   
馬までも 萌黄の蚊帳に 寝たりけり   
江戸の水 呑々馬も 蚊帳に寝る
夕風や 馬も蚊帳吊る 上屋敷
留守中も 釣り放したる 紙帳かな
月さすや 紙の蚊帳でも おれが家

最近、マラリアの被害に悩まされるアフリカ諸国や東南アジアなどで、低コストな蚊対策として蚊帳が注目を浴びていることを知って、井戸を掘ること以来の、日本のよき知恵、よき支援だと思いました。

子規の句は、蛍と蚊帳と人の関係を巧みに詠んでいます。子規には、

川風の蛍吹きこむ二階哉

という句があります。
二階に蛍が吹き込む、という表現は絶妙ですね。

俳句
腐草為蛍

画/柴田 美佳

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