びおの珠玉記事

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(ひこばえ)樹洞(うろ)にみる二次的自然

スズメバチの巣

写真/photoAC  m.maeda スズメバチの巣


「里山」とか「雑木林」と呼ばれる天然林(二次林)は、人の暮らしと自然とが密接に関わり合ってきた共生の空間です。そこではクヌギやコナラの木は定期的に伐採され、燃料(薪)として利用されてきました。伐採された切り株からは、新しい芽が勢いよく生えてきます。これを(ひこばえ)と言います(孫生(ひこばえ)とも書く)。

ひこばえひこばえ(クヌギ)

植物学的には萌芽再生(萌芽更新)といい、広葉樹にのみ見られる特性で杉や桧、松などの針葉樹には見られません。この新芽は10年かけて成長し、再び薪として利用されます。こうして薪炭林では10~20年周期で伐採と萌芽更新が繰り返され循環してきました。
(ひこばえ)は長年のうちに、樹洞(うろ)と呼ばれる穴を木の根元に作り出します。

うろうろ(クヌギ)

うろには小鳥やヒキガエル、ミツバチなど多くの生きものが住みつきます。夏になると、甘い樹液にカブトムシなど無数の昆虫が群がります。そこには豊かな生物多様性が形成されるのです。

人の手が入っていない原生林などの「原生自然」に対して、里山や農耕地など人の手が積極的に関わった自然を「二次的自然」と言います。たとえていうと映画「もののけ姫」の森は原生林(原生自然)、「トトロ」の森は二次林(二次的自然)といえると思います。

畑と小川の自然の風景農耕による二次的自然(香川県綾川町)

この二つはどちらが優れているという類のものではなく、どちらも大切な「日本の自然」なのです。生物多様性の観点からみると二次的自然の方がむしろ原生自然よりも生物相が多様であると言われています。それは、まさに人が自然や他の生物達と共生してきた歴史と言えるのではないでしょうか。人の暮らしそのものが、生物が生きていける空間(ビオトープ)をつくりだし、維持されてきたのです。里山(雑木林)にみられる(ひこばえ)樹洞(うろ)、そしてそこで育まれる生物の多様性は、人が関わり続けることではじめて維持されてきた自然(二次的自然)なのです。

クヌギクヌギの巨木(香川県仁尾町)

今、人が自然に関わることが極端に減ってきました。結果、里山や水田や森(人工林)が荒れています。古代より自然と関わり続けてきた日本人としての共生の自然観を今、もう一度身近に取り戻す必要があるのではないでしょうか・・・。

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/
蘖(ひこばえ)
http://sugakun.exblog.jp/10217366/

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年05月13日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。