特集

近頃スズメを見かけなくなった。何故だろう?

2009年03月06日 金曜日

七十二候に、雀始巣(すずめはじめてすくう)という時候があり、それについて考えていて、はたと気づきました。それは、近頃スズメをとんと見掛けなくなった、ということです。そういえば、という感じで頭にのぼりました。
「びお」編集部は浜松にあり、事務所の前は佐鳴湖という湖です。かつて葦が生い茂っていた湖岸はコンクリートで固められ、そうした湖が例外なく陥ることになる水質汚染の面で、全国ワーストワンの汚名を浴びている湖ですが、それでも湖岸の緑はそれなりにあり、浜松のなかでは自然のゆたかな場所のひとつです。
百舌鳥(もず)に生贄にされ、茨のとげに突き刺されたトカゲやバッタを見掛けることもありますし、「ヒーヨヒーヨ」と鳴くヒヨドリ、「ギャーギャー」「ギュルギュル」と鳴くムクドリも顔をみせます。足とくちばしが黄色いムクドリは、椋の木の実を好んで食べるため「椋鳥」と呼ばれるようになったと言われますが、わたしの仕事部屋に迫るように立っているニレの木に、毎日のように顔をみせ、虫をついばんでいるようで、スズメよりも多く見掛けます。
また、油断していると事務所の建物はクモが巣を張り巡らします。クモが巣を張るということは、それなりに虫がいるということです。
湖の周辺は都市化が進んで、大きな住宅団地が形成されていますが、そこここに田畑は残されています。人に近いところで生活するスズメにとって、決定的に条件が失われたとは思えません。スズメは雑食性なので、生き残るタフさを持っているはずなのに、スズメが電線に並んでさえずる姿がみられなくなったのです。
代わって増えたのはカラスです。これはスゴイ増え方です。電線という電線にカラスがいて、夕方になると、ヒッチコックの『鳥』を思わせるほどに、カラスで空が暗くなるほどです。ゴミ置き場はカラスのエサ場になっていて、グリーン色の網で覆われているのに、それをぞんざいに扱う住人の隙をみつけては、ビニール袋の穴を開け、食べ残しゴミを漁っています。
湖の周辺には、野良猫がたくさんいます。保健所に持って行くよりいいと思って捨てに来る人がいるからです。しかし、ここで野良猫が生きて行くのは大変で、小さな猫はカラスに襲われ、大きな猫も痩せていて、不安げな表情を浮かべています。
それにしてもスズメの姿がみられません。これはどうしたことだろう、スズメに何があったのだろう、と思わざるを得ないのです。

半世紀前との比較で、スズメは90%も減少した!

そんなわけで、あれこれwebを検索していたら、スズメの生息数を全国レベルで推計調査した人がいて、最近20年足らずで最大80%、半世紀前との比較では90%も減少し、1800万羽の生息数にとどまるという報告があることを知りました。全国調査した人は立教大理学部特別研究員の三上修さんです。
三上さんの調査は、08年5、6月に実施されました。気候の偏りなどを考慮して秋田、埼玉、熊本の3県が調査地に選ばれ、住宅地・農村・森林など、五つの生息環境について巣の平均密度を算出し、国土交通省が持つ建物用地や森林などの面積データとの比率を基にして、巣は全国に約900万個あり、個体数はつがいで約1800万羽と推定しました。スズメの減少率は、農作物の被害面積や、有害鳥獣駆除数の推移などから推定。個体数は90年以降80~50%程度減り、60年ごろとの比較では、10分の1になった可能性もあると結論付けました。
三上さんは「まだ保全の緊急性が高いとは言えないが、個体数の変化をモニタリングし、減少の原因を突き止める必要がある」と話しているということですが、スズメの生息数を全国レベルで推計した調査は初めてです。
地域調査では、東京・東久留米市の自由学園の中学生が、45年前から毎月行ってきた「バードセンサス」(野鳥の数の調査)の記録があります。それによると、64年の延べ1,740羽数えられたものが、70年には1,333羽に、80年には696羽に、90年には432羽に、98年には279羽に減少したという結果がでています。この自由学園の「バードセンサス」の結果を分析した「都下自由学園周辺の鳥相変化と環境変動-長期羽数調査の統計分析から(内田康夫・島津秀康・関本兼曜) 」という論文がでていて、そこにでている表をみると、スズメの減少傾向と、それと合わせるようにハシブトガラスの急激な増加が目立っています。おそらくこれは全国的な傾向だと思われますが、果たしてそれを裏付けたのが三上さんの調査でした。
この結果は、やはり驚くべき事態の進行といわざるを得ません。


スズメとハシブトガラスの時系列変動
都下自由学園周辺の鳥相変化と環境変動-長期羽数調査の統計分析から(内田康夫・島津秀康・関本兼曜) より

スズメの巣

スズメが、ここまで減少してしまった理由として、エサ場の田畑と、巣を作る木造家屋の減少が挙げられていることに、わたしは注目しました。エサ場の田畑は分かるとして、木造住宅の減少が挙げられているのは、業界関係者の一人としてショックな話であるからです。
スズメは、屋根瓦、棟瓦の下、雨樋と屋根のすき間、電柱の上のチューブのなか 広告塔、橋桁の下、材木置き場、石垣の下、採石場の割れ目、ツバメなど他の鳥の古巣、ベランダに置いた長靴のなかなど、あらゆるところに巣をつくります。スズメバチの古巣を利用した例もあるようです。草木が葉がのびてスズメが隠れるほどになることを「雀隠れ」といいますが、スズメは警戒心が強く、人間が見ていると「ヂヂヂヂヂヂ」と短く高い声で警告し、右往左往してなかなか巣場所に戻りません。
巣材は、枯れ草、小枝、木の皮、草の根、紙くず、糸、布切れ、鶏の羽、犬の抜け毛などを用います。犬の抜け毛までというのが、いかにも姿形がちいさなスズメらしくて可愛くていいですね。スズメは一週間から10日ほど掛けて巣をつくります。

食性は雑食性で、イネ科の種子が特に好きです。そのため、昔から農民に嫌われ、害鳥の代表のように見られてきました。農民はスズメを駆除するため、田畑にかかし,鳴子などを備えつけ,小正月には〈鳥追〉の行事を行って、その一掃を願いました。しかしスズメは、繁殖期には虫を捕食して害虫を駆除し、雑草の種子も食べますので、あながち害鳥とばかりいえません。
中国でスズメを撲滅する計画が実施され、1年間に11億羽以上を捕獲した結果、農作物の害虫が増えて、全国的に凶作となったことがあります。巨大な力で生物連鎖を断つと、そういうことが起こるという例証です。中国を訪問して気づくことは、湖にも、山にも鳥がいないことで、それは最終的に人間に還ってくるのでは、と恐怖を感じます。
日本のスズメの話に戻ります。
都市部に生息するスズメはサクラの花や、パン屑・菓子屑、生ゴミまで何でも食べます。この雑食性が、スズメのつよさでした。およそ人が住むところに普通に見られ、人に強く密着した鳥だったのです。
スズメが減った原因として、三上さんは「子育ての環境変化」を上げます。先に紹介したように、スズメはあらゆるところを巣に利用します。ところが最近の住宅には、スズメが巣を作れる隙間や穴がなくなったというのです。瓦や、板張りの外壁は、それなりに隙間や穴が開いていましたが、サイディングの外壁には隙間も穴も開いていません。軒の出が短くなり、軒裏も巣をつくる場所がなくなりました。
いわれてみると、今の住まいはのっぺらしていて、スズメが巣をつくれる隙間や穴をふさいでいます。殊にハウスメーカーの住宅に顕著で、スズメに余地を与えず、隙間を見せず、寄せ付けない家のつくりになっています。そういえば、ツバメが巣をつくる軒の出も短くなっています。住まいの防犯のためにはいいかも知れませんが、住まいが余裕を失ったようで、何だかさびしくありませんか。

雀の子そこのけそこのけお馬が通る[一茶]
いそがしや昼飯前の親雀[子規]
雀子や走りなれたる鬼瓦[内藤鳴雪]
雀の巣藁しべ垂れて日没す[山口誓子]

三上さんは同時に、「巣の近くにヒナに食べさせる昆虫などの餌が豊富に得られる原っぱや田畑がなくなった」ことを挙げ、さらに「ヒナがカラスなどに食べられることも原因の1つ」といいます。
それにしても、この半世紀でスズメが90%も減少したとは、と驚くばかりです。

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