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興味津々

興味津々・No.036

2009年01月10日 土曜日
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蓄音機敗戦から半年余り、食料が窮乏し、人のことをかまっておられず、誰もがささくれ立っていた時代。闇物資を背中に担ぐ者もいて、電車は満員に膨れ上がっていた▼お母さんに背負われた乳飲み子が押されて息絶えるかと思われたとき、一人の少女が甲高い声で、「赤ちゃんがいます。空けてください」と叫んだ。一瞬、静寂が支配したそのとき、おいおいと泣き出す老人がいた。その老人は、「日本は亡んでいない、亡んでいない」と言ったという▼この老人は、三好十郎という劇作家だった。ゴッホを描いた『炎の人』や『斬られの仙太』『浮標』などの作品で知られる。氏が亡くなったときに追悼集が編まれ、その場にたまたま居合わせた人が書いたエピソードである▼さて、昨年末から、このお正月に掛けて日比谷公園で繰り広げられた光景を、連日テレビで見た。それを見ながら、三好十郎と同じようなことを思った人が多かったのではなかろうか。今度のことで、日本人は見捨てたものではないと多くの人が語っていた。救済された人がインタビューされて、「来年、同じようなことが起こったら、今度は自分がボランティアでくる」という人がいた。中には、ここで多くのことを学んだ、という若い人もいた▼この言葉を聞いて思い起こしたのは、マキシム・ゴーリキーの『私の大学』という小説だった。ゴーリキーは5ヶ月間小学校に通っただけで社会に放り出され、商店の徒弟、ヴォルガ川を往復する汽船の皿洗いなど、ロシアの下層社会の生活を、身をもって体験した作家である。彼は路頭にいて学び、その路頭を『私の大学』と呼んだ▼日比谷にやってきた人の中には60歳を越える人もいたが、若い人もいた。いうなら「人災」に遭い、やむにやまれず日比谷にやってきた人たちである。彼らは食い詰め者だという冷たい見方をする人もあり、与党の政務次官の中にそういうことを口にのぼらせた者もいるが、突然、寮から放り出された人のことを思うと、只事ではなかったわけで、ショックも深く、孤絶感を覚えたことであろう▼そのような人たちにとって、日比谷公園は自己回復の場になり得たと考えるべきである。ここに流れ込んだ人、それをサポートした人たちを決して非難してはいけない▼多分、大勢の中には変な奴も紛れ込んでいたに違いない。けれども、それは問題ではないのだ。大事なことは、ここで人間回復できた人がいたであろうことである。彼らは日比谷をきれいに引き上げた▼きれいに清掃された日比谷公園がテレビに映し出されるのをみて、日本は亡びないと思った。

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