設計のみつくろい
開口部(永田昌民)
永田昌民さんに聞く【第2回 開口部】
聞き取りという形式で、建築家・永田昌民さんに、設計のみつくろいを語っていただくシリーズ第2回目は「開口部」です。
- 第1回 明かり(11/12公開)
- 第2回 開口部(12/1公開)
- 第3回 建具金物
- 第4回 空気集熱式暖房
第2回 開口部
永田昌民さんの「設計のみつくろい」、今回は2回目です。
前回の「明かり」は、とても好評で、一般の読者の方から電話で、「『設計のみつくろい』は、本になっていないの?」という問い合わせがありました。原稿を寄せていただいた建築家からも、「これは一冊の本にまとめるべきだ」といわれています。もう少し原稿がたまって、町の工務店ネットがつよくなったら、いずれまとめたいと考えている、と答えました。そんなわけですので、よろしく。
すぐこっちに振るんだから(笑い)。
というわけで、今回のテーマは開口部です。
建築部位のみつくろいが主なので、開口部そのものに目が向いますが、開口部の計画は、敷地そのものをどう読むか、どう場をつくるか、どういう風景をつくるかに掛かっていますよね。
もちろんです。住まいの設計は、敷地の形や広さ、向き、周辺環境、陽当たりや風の抜けなどを整理しながら、どこに中心を置き、どんな形の家にするのか、まずおぼろげながら配置を考えます。そうすると、かならず「ここに建ててよ」という声が聞こえてきます。素直にそれを聞いて、頭の中に浮かんだ居間や、食堂や、デッキに立ってみます。そうすると周囲の家が見えてきて、樹木が見えてきて、あの家は見たくないなとか、あの山は視界に入れたいな、ということが出てきます。さっきは「ここに建ててよ」でしたが、今度は「ここを開いてよ」という声が聞こえてきます。
それが開口部だと。
そうです。敷地には、それぞれ地味というか、その敷地ならではの場の力があります。「場をつくる」というのは、そういう場の力を見つけ出し、そこに向けて住まいを「開く」ことです。
また住まいは、風をコントロールしたり、熱や明るさを自然から得なければなりません。
季節の風向きをよく知り、新鮮な空気を住まい全体に行き渡るよう通り道をつくります。風は新鮮な空気だけでなく、季節の匂いや鳥の鳴き声、葉が擦れる音なども運んでくれます。


葉が擦れる音ですか。
そよ風に吹かれて、かすかに聴こえるんです。
ぼくの場合は、この風の通り道に、結構、神経を使います。南から入れた風を、北までスムーズに導くことが大切で、風向風速、頻度など、気象データも活かして、風を上手に受け入れるようにします。そうすると、暑い夏であっても、四六時中クーラーを回さなくても済むようになります。
夏の下里の家(永田自邸)は、よく風が通っていました。
(うれしそうに)あの家は、よく風が通るんです。
窓は風のコントロールと共に、光と熱を調節する役割を持っています。光(昼間の明かり)についていえば、窓が多過ぎると、なんだか落ち着かない家になってしまいます。また、均質に明るいだけの単調な採光は、あまり心地よいものではありません。
ぼくの設計では、居間と食堂は、床から天井までいっぱいに開けて、晴れやかに明るくなるようにしています。和室は地窓を設けて、落ち着いた雰囲気に、台所は手元を重点的に明るく、トイレの窓は換気ができるようにとか、部屋に応じた光の採り方を大切にしています。それぞれ適宜が大きさと機能を持ち、適所に配置するのです。
トップライトが好きな人がいて、ぼくも設けることがありますが、太陽から得られる光は、採り入れ過ぎると、夏に暑くて大変です。昼光照明は、出来る限り採り入れたいと思いますが……。
大きな窓は、冬でも晴れていれば、室内いっぱいに太陽熱が降り注いでくれます。暑いぐらいの日もあります。けれども、夜になるとその窓から熱が逃げてしまいます。昼と夜のモードの転換というか、その大きな窓に障子を立てれば、熱の逃げを少なくすることができます。複層建具で、放熱を防ぐのです。
狭い敷地で、開放感を得たいと思うと、吹き抜けということになりがちですが、吹き抜けは温熱環境からいうと、いろいろと難があります。温かい空気は天井に昇って溜まりますし、2階のホールに階段を設けたりすると、その階段を伝わってコールド・ドラフトが起きたりします。



複層建具により熱をコントロールする。上からガラス戸、簾戸、障子。
壁と開口部の関係は、どの程度がいいのですか。
おおよそ1対3というところでしょうか。開口部が1です。必要な通風や採光や眺めが得られれば、その他は壁を残すのがいい。壁は落ち着きを与えてくれますから。
でも、永田さんが設計される開口部は大きいですよね。
そんなふうに感じられるんだ。調べてもらうと分かるけど、だいたい1対3のバランスでやっています。もし開口部が大きくみえるとしたら、その開口部を、大きく開けるようにしているからだと思う。小さな窓も、大きく開くことを大切にしているので。
どうして他のところより大きく開けるのですか。
壁の中に引き込める、大型戸袋付引き戸の開口部は、特に効果的です。一般的な掃き出し引き違い戸では、目障りなことに、サッシが引き残されます。網戸までぜんぶ引き込めば、引き戸自体の存在まで消してしまうことができて、すっきりします。建物の内と外が一体となった開放感が得られます。
引き戸ですか?
日本の建具は引き戸がうまくできていて、引き戸によって大きな部屋を小さくしたり広げたりできますし、少し開けたり大きく開けたり、また、開き具合を加減して風をコントロールすることができます。
ガラス戸に障子や簾戸(すど/スダレや竹を障子の枠中にはめこんだ戸。夏に通風をよくするために用いる)を組み合わせると、冬の断熱、夏の通風の助けになり、季節を感じることもできます。部屋と部屋の間仕切りも軽やかだし。



引き戸は途中でとめる等の様々な使い方が出来る。こちらも上からガラス戸、簾戸、障子の順。
大きく引き込んだ窓から外をみると、風景や樹木がいっぱいに飛び込んできて、いいですよね。
敷地の周りに、採り入れたい風景を、まず最初に探すということを言いましたが、もしきれいな風景が得られない場合でも、樹を植えると、それがやがて大きくなります。大きな樹冠を持った樹は、もうそれだけでステキです。

きれいな風景が得られなくても、樹が目を楽しませてくれます。
『住まいを予防医学する本』で、永田さんが、画家の猪熊弦一郎の家が好きなことを知りました。あの家は、2階の窓からは大きなオリーブの樹が見えるのですよね。
あの家は猪熊さんの自宅兼アトリエです。設計は吉村順三設計事務所。猪熊さんと吉村さんは美校(現東京藝術大学)出身であったこと、またアメリカでの交友もあったと聞いています。
あの家は、台所を中心にして外に広がっています。見事に開放的な家です。ただただオリーブの樹を見るために、ここまでいさぎよくやれるのか、と。もう30年も前になりますが、この家をみたとき、いつかこんな家を建てたいと思ってやってきました。


猪熊弦一郎さんの家。オリーブの樹に吸い込まれる視界。
大きな窓は、外から覗かれる心配がありますが。
密集地で大きく開くのは考えものです。でも大きく開きたいわけで、その場合は、外の影が映るぐらいのすりガラスを取り入れたり、また透明ガラスの場合でも、間取りや植え込みで視線を遮ったりします。垂れ壁を設けるやり方もありますが、住宅なのであまり料亭のようにやりたくありません。京都の俵屋などは、それは巧みなものですが……。

植え込みで視界を遮れば、大きく開くことが出来る。
大きな窓と小さな窓の使い分けはどうですか?
内と外との関係、天井の高低、部屋の広さ、部屋と部屋の関係、壁と窓の関係など、いろいろな面から考えて、プロポーションを押し詰め、バランスよく配していくと、おのずといい大きさが決まります。暗いと思ったら地窓や高窓を設けます。地窓は、床をぽっと明るくしてくれますし、風の通り道にもなります。高窓はプライバシーを確保しながら、光や空の風景を取り込みます。
地窓からみえる草花や、高窓からみえる葉の茂り、梢はいいものです。

1941年、大阪府生まれ。建築家。東京藝術大学美術学部建築科卒業、同大学院(吉村順三研究室)修了。1971〜73年同大学非常勤講師。1976年益子義弘(現・東京藝術大学名誉教授)氏とM&N設計室を設立。1984年N設計室に改称、現在に至る。自然エネルギー研究所所長。





2008/12/9(火)18:49
開口部のあり方は家具の配置とも大きく関係します。
今度は家具の話を書きたいと思うのですが・・・
永田さんの家具に関するお話もお聞きしたいですね(笑)。