設計のみつくろい

明かり(永田昌民)

2008年11月12日 水曜日

永田昌民さんに聞く【第1回 明かり】

建築家・永田昌民(N設計室)

住宅建築別冊 『住宅設計作法 永田昌民・N設計室の仕事』
住宅建築別冊 『住宅設計作法 永田昌民・N設計室の仕事』

今回は、聞き取りという形式で、
建築家・永田昌民さんに、
設計のみつくろいを語っていただきます。

第1回 明かり

編集部

永田昌民さんに、「設計のみつくろい」に登場いただきます。
永田さんは明かりについて、これまでいろいろ書かれています。聞き取り方式にしたのは、叙述式では分からないこと、聞きたいことを、ハッキリさせよう、くわしく聞き出そうというのが理由です。よろしくお願いします。

永田
「設計のみつくろい」は、みんなリキが入っていますね(笑い)。
明かりで大切なことは、明るいだけがいいことではない、ということですね。昼のように明るい照明だと、夜も元気でいなければ、と強要された感じを受けると思います。
少し詳しくいうと、太陽高度が一番高い南中時は、上からの光に照らされますね。そのとき、人の気持ちは、最も活動的で、同時に緊張感が伴います。夕暮れに向うと、太陽の光は弱くなります。そうすると、緊張感が和らぎます。光は人間のバイオリズムを決めているそうで、そういえば、時差ボケを直すのは太陽光の下で動くことだと奥村(昭雄)さんが言っていました。
いずれにしても、外で仕事したり、学校で勉強したり、部活で汗を流して家に帰ってきて、また、部屋中が明るいと休まる感じがしません。塾の明かりは、煌々(こうこう)としています。目を覚ませ、勉強しろという感じですね。
編集部
コンビニの明かりは1,000ルクスで、ドラッグストアは2,000ルクス、商品を照らすスポットライトは3,000ルクスといいます。
永田
家がそれでは休まりません(笑い)。電車の中や、エレベーターの中の照明を、照明とは思っていません?
編集部
いわれてみると、確かにそういう感じがありますね。両親が、コマーシャルの「明る〜いナショナル」が消えて淋しいと言っていましたから、その影響かも。
永田
夜は暗いからこそ休まるのです(笑い)。闇を溶け込ませながら、必要な明るさだけをとるのが家の照明です。
家の明かりは、炎のように闇と光が混在するようなところがないとつまらない。この頃、ろうそくの灯りを楽しんだり、影絵に想像力を逞しくしたり、ということがなくなりましたね。それは闇がなくなったからです。
環境省が「消灯キャンペーン」というのをやっていて、あまり浸透していないキャンペーンだけど、明るいだけの照明を消してみて、ほしい明かりは何なのかを考えると、明かりの本質が見えてくると思います。結果において省エネになるのであって、「消灯」だけをいうキャンペーンでは広がらないかも知れません。
編集部
永田さんは天井の照明器具は最低限しかつけられませんよね。
永田
天井照明がないわけではありません(笑い)。少ない天井照明と、家族が思い思いの落ち着きを得られる部分照明が重なり合って、それが全体の照明になるのがいいと思っています。
学生のころ、師であった吉村順三さんが、「京都御所の天井には照明がない。だからきれいなんだ」といわれたことがあって、つよく印象に残っています。部分照明がつくりだす陰影が消えない程度の天井照明に留めたいですね。
編集部
部屋の中で何かなくした場合、暗いと困りますが?
永田
そういう質問があると思っていたけど(笑い)、簡単な調光器――ライトコントローラーを付ければ解決する話です。自分で照度を調整することにもなるので、試してみてください。ぼくが天井照明を出来るだけ少なくしたいのは、陰影のある明かりは、とても気持ちがいいからです。
編集部
谷崎潤一郎が『陰影礼賛』のなかで書いたように、陰影は「味わう美学」だからですね。永田さんは、光源に白熱灯を使われますね。最近は環境云々で蛍光灯が推奨され、2012年には、国内での製造・販売を中止する動きがあるようです。白熱電球は消費電力が大きいという理由です。
永田
そういう槍玉の挙げ方には怒りさえ感じますね。テレビは何ですか、冷蔵庫はどうなの、みんな大きくなっています(興奮気味)。たくさんのムダ、ロスをしておいて、一部を槍玉に挙げてエコをいうのは変だね。白熱灯の販売価格に対して、“電球型蛍光灯”は10倍近い価格です。製造中止をいうなら、最低限、同等の価格にしてからいうべきです。経済産業省と電気業界の陰謀ではないかと思っちゃいますね。
編集部
ただ、『地球白書』をまとめたワールドウォッチ研究所の前所長・レスター・ブラウンのような人さえ、蛍光灯への転換を呼びかけていて、オーストラリアでは2010年まで、カナダ政府も2012年までに白熱電球の販売を中止すると表明しています。レスター・ブラウンは、あらゆる面での省エネを訴えていて、ほかは垂れ流していいと言っていませんが。
永田
世界的な電球メーカーのフィリップスも、2016年までに欧米での販売を止めると発表しているそうですね。確かに“電球型蛍光灯”は白熱灯の1/4〜1/5の消費電力で済みます。それは価値との関係で相対的に考えるべきことであり、白熱灯が電気を食うことを分かっていて、それでも白熱灯を選ぶ人は、多分、不必要な明かりは消すと思うのです。何を大事にして、何を捨てるかという選択を、勝手に決めてほしくないですね。
電磁波発生という面からみると、電磁波は白熱灯の方が圧倒的に少ないわけです。そういう点を含め、総合的に考えるべきです。
性能面からみると、蛍光灯は、物の影がつきにくい性能を持っています。オフィスやコンビニなど、広い範囲を明るく照らすにはいいのです。電気代も安くて、寿命も長いので経済的です。一日6時間点灯した場合、蛍光灯は2〜3年、白熱灯は約1年の寿命ですから。ただ、白熱灯の価格は1/10で済みます。
編集部
それにしても、世知辛い世の中になりましたね。
永田
家全体でどれだけ省エネすべきか、指標を出してもらって、それで選択できるようにするのがいいですね。人間活動の結果、地球の具合が悪いというのだから、その指標のハードルが年々上がって行ってもいいと思う。ただ、選択の余地は残してもらいたい。
ぼくは青白い光がモノを平板に照らす蛍光灯は使いたくありません。日が落ちて、晩ご飯のおいしそうな匂いと、赤っぽい明かりが灯るわが家の記憶を大切にしたいと思っています。そんな懐かしい光景を呼び起こすのが、あたたかみのある白熱灯の明かりです。その頃、電気はいくらも使っていなかったし、それで暮らせたわけで、ここまでエネルギー多消費型の生活を強いておいて、白熱電球だけに目くじらを立て、槍玉に挙げることはないだろ、といいたいですね。
編集部
悲憤慷慨(ひふんこうがい)を鳴らされますね(笑い)。同感です。町の工務店は夕餉の風景が好きで、吉村さんがいわれた、
「日暮れどき、一軒の家の前を通ったとき、家の中に明るい灯がついて、一家の楽しそうな生活が感じられるとしたら、それが建築家にとっては、もっともうれしいときなのではあるまいか」
という言葉、よく分かるんですね。もちろん吉村さんとは次元が違うのでしょうが。マズイ仕事をしたら、その家の前は通れないという気持ち(笑い)を持っています。
話を前に進めたいのですが、永田さんは照明器具の種類が少ないことで知られます。その理由を教えてください。
永田

食卓にはペンダント、食卓のあかりは、みなで囲むことのできる明かりでありたい。おだやかに、控え目に照らしてくれる月のようなあかりがほしい。灯具の高さは必ずテーブルに置き、なるべくならそこに住む人に椅子に腰掛けてもらった状態で決めることにしています。
天井にはできれば何も付けたくないと思っています。何かの必要ができたとき対応する道具としてのフロアスタンドでほとんど間に合います。
今や居間のメインのようなTVについては、しかたなく、調光できる大型のダウンライトを付けています。ふつうは天井に器具があってもさほど気にならないけど、何もないとかえって変な気がするくらい照明器具にならされてしまっています。
実際、照明器具はとにかく目障りなものです。天井に照明器具がないことを一度体験すると、あるなしの違いや、その部屋に及ぼす空間の質がいかに違うかが分かります。

それぞれの場所と、必要とされる機能で選べば、結果、そういうことになります。
器具は、安価でシンプルなものを使います。とくに小さな家の場合は、器具自体に存在感があると、それが部屋のイメージを決定づけますので注意して選びます。

豪華な照明器具を付けることではなくて、明かりそのものを、どう大切にするかが問題です。器具をオリジナルでつくることもあるけれど、オリジナルですべて作るのは手間もお金も掛かり、たいへんなことなので、出来る限り既製品の照明器具から選ぶことにしています。でも、望んでいるさりげない形のものは少なくて、結局使うものはごく限られた種類になってしまいますね。

編集部
ロシアの作家マキシム・ゴーリキーに『どん底』という戯曲があって、この中に出てくる韃靼(だったん)人が、起きて騒いでいる連中を一喝して、「夜は暗いものだ。みんな早く寝ろ」というセリフがあります。東方の暗闇からモスクワの浮浪者の溜まり場にやって来て、鬱憤を吐き出すように言うのですが、夜は暗いものだと、今、日本人のどれだけの人が思っているでしょうか。
永田
明るくなければ不安を感じるというのは、明かりが持つ豊かさを知らないからです。フィンランド人は、ローソクの使い方がうまくて、人を招く場合は家のアプローチにローソクを立てて歓迎します。日本も打ち水して人を迎えてきたわけで、そういう気遣いや贅沢を大切にすると、自然と環境に目が向くはずです。
電気照明を使うようになったのは、ここ1世紀ほどです。明かりを楽しむという文化が成熟しないまま、器具だけを手に入れてしまったのではないでしょうか。
縄文人が、闇夜に火を起こせるようになったとき、その歓びはどんなふうだったかと、ときどき想像することがあります。実際には、獣除けの効用の方が大きかったでしょうが、そんなふうに想像すると、明かりが持つおもしろさがみえてくるのです。
イラスト:斉藤真

イラスト:斉藤真

【主な照明】

ペンダントライト

乳白色で光を透過させるシェードをもち、やわらかい光を生んでくれます。ペンダントライトを食卓に下げる場合は、60Wでは少し暗めですが、小さめのテーブルには、このくらいの明るさが向いています。

ダウンライト

ダウンライトとは、天井に埋め込む照明で、50W〜150Wまで。白熱灯はかなり熱をもつ光源ですが、後方に熱を逃がす方式もあります。ダウンライトの中には、首を引き出せばスポットライトになるタイプもあります。

ブラケット

壁付けのブラケットは、他の照明器具に比べると価格は割高になりますが、電球を差し込むだけのシェードのないタイプであれば安価。天井照明にも使うことができます。首が振れるものは天井に向けて間接照明もできます。

その他

天井照明にもブラケットにも使え、壁の絵画やピアノを置く場所を照らすスポットライト。地面に差して樹木を照らすのに使われる庭園灯。テラスなどに用いられる、船舶用の持ち運べる灯具など。

永田昌民の定番──
「照明器具は、5種類あれば十分ですね」

1.【食卓用】
ルイス・ポールセン:P3007W
a.ガラス/ルイス・ポールセン:P3007W
「まろやかに成形されたガラス製の笠をもつ小さなペンダントです」
 
エリック・モーレンス:P3005W+Z3010W
b.プラスチック/エリック・モーレンス:P3005W+Z3010W
「小さなペンダント。単純な形の乳白樹脂の笠をとおしてもたらす光がやさしいです」
2.【浴室用】
ヤマギワ:B-368
ヤマギワ:B-368
「浴室に横向きで使うことが多い照明器具です」
3.【階段・駐車場・外部用】
ヤマギワ:B-361B
ヤマギワ:B-361B
「水廻り、および、外部は、ほとんどこれを使います」
4.【室内用】
ウシオスペックス:SX-B034D/BF
ウシオスペックス:SX-B034D/BF
「50Wと少し暗めですが、フレーム外寸85φで器具の存在が目立たないのが気にいっています」
5.【物置用】
ヤマギワ:G-054J
ヤマギワ:G-054J
「安いのがよい」

スケッチ:永田昌民

永田昌民(ながたまさひと)

1941年、大阪府生まれ。建築家。東京藝術大学美術学部建築科卒業、同大学院(吉村順三研究室)修了。1971〜73年同大学非常勤講師。1976年益子義弘(現・東京藝術大学名誉教授)氏とM&N設計室を設立。1984年N設計室に改称、現在に至る。自然エネルギー研究所所長。

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