設計のみつくろい
音 (河浩介)
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音(部屋で映画や音楽を楽しむために)
音源の変遷
SPがLPになって、カセットやCDへ、さらにネット配信でi-pod・i-phoneへと、音源はめまぐるしく変ります。
モノラルだったLPが、左右2チャンネルのステレオに変ったように、既に身近なDVDやこれからのテレビには、前方左右の他に前方中央、後方左右、そして低音を受け持つスーパーウーハーと5.1チャンネルの情報が入っています。
機械と部屋さえ揃えれば、頭上から降って来る隕石や背後に迫る足音も本物のように再現できます。
何故5.1チャンネルか
大部分の人にとって5.1チャンネルという言葉は、福音というよりは、出来れば関わり合いになりたく無い迷惑なものかもしれません。“5.1チャンネル! スピーカーが5個! 5.1のテンイチって何?”。
大きなプロジェクターと山のような機械を並べたホームシアターが夢だという人は別です。今回は、専用の特別室を持つ気はないけれども、毎日暮らす食堂や居間、自分の部屋でもっと気軽に音楽を楽しめたら”という方々のために、「音」についてのお話がしたいと思います。
勿論、ホームシアターやプロのモニタールームでは、音源に含まれた情報を細大漏らさず再現する為に、聴く人を取り巻く様に部屋の四方八方に大きなスピーカーを置く事もある訳です。けれどステレオが二つのスピーカーを必要としたのと同じ様に、普通の家庭で5個6個のスピーカーを置く事にはならないでしょう。
位相の話
普通の部屋に幾つものスピーカーなんて置けません。こうした私達の都合の他に、それを可能にする技術の進歩があります。
人間は、音がどこから来るのかをどうして知るのでしょう。
ステレオの前でバランスのつまみを回してみて下さい。左右の耳に同じ音が届けば正面から、右からの音が大きければ右前方からの音と判断します。左右の耳に届く音量の違いで判断をしています。もうひとつ、音源からの音が波だとすれば、右の耳と左の耳には届く時間が違います。右の耳には3波目で届くのに、左の耳には4波目で届きます。同じ音源のもっと高い音は10波目で右の耳に、13波目で左の耳に届くかも知れません。つまり、左の耳には少し遅れて届くはずです。
また細かく言えば、波の頂点か、底か、その間かでも違います。これを「位相差」と言います。
人間の耳は左右に二つしかありません。必ずしも5個6個のスピーカーが無くとも、音量と位相を操作された音が左右の耳に入れば、その方向性を判断します。こうした偽装の為の素材としてこそ、5.1チャンネルは有効です。つまり、5種類6種類の音源をどう混ぜてどういう位相差で左右の耳に届けるかと言った、コンピューターとプログラムの問題になって来るというわけです。
まだまだ完璧とは行きませんが、ゆくゆくはテレビの左右、或は上下に二つ、上手くすればたったひとつスピーカー(ひとつの箱の中に幾つかの向きの違うスピーカーが入っていて位相や大きさをずらしながら鳴らす)を置くだけで、聞く人が四方八方からの音に囲まれる事もできるでしょう。デジタルデータが配信されるこれからは、高価なレコードを買って、大きなステレオセットを並べないと聴く事が出来なかった時代に比べて、ずっと音楽が身近になりそうですね。
遮音(その1/外壁)
そのように暮らしの中に音楽がさらに溶け込めば、気になる、気にしなければいけない問題がいろいろとでてきます。一つは騒音です。気持ちよく音楽を楽しむためには、同時に、建物の「遮音」について考える必要があります。
音源が円盤のレコードであれ、i-podであれ、「遮音」に対して建物の側で用意すべきことはそんなに違いがありません。交通量の多い通りに面した家では、外の騒音に煩わされることなく、音楽だけを聞きたいし、逆に静かな住宅街では隣家に気兼ねすることなく、自分の好きな音楽を聞きたいものです。野原の中の一軒家や、地下室では必要の無い話かも知れませんが・・・。
昔の住宅に比べ現代のサッシやペアガラスは、気密・断熱性能が格段に高まりました。かといって、スタジオの様な遮音を目的には出来ていません。けれど、昔の薄いガラス一枚、隙間だらけのサッシよりは大分ましなことは確かです。真夜中にドラムの練習をしたり、アクション映画のDVDをフルボリュームで鳴らすのでない限り、窓の前に立てば漏れて来る音もありますが、隣家の中へ入ってしまえばうるさいという事もないでしょう。しかし、もしも気になる場合は、内側に後から塩ビのインナーサッシを付けると、簡単に遮音性能を上げる事が出来ます。
また、隣家との間に立つ外壁で、グラスウール等断熱材の内側に用いるプラスターボードを二重に貼るだけで、大きな効果が期待出来ます。プラスターボードは、あらゆる材料の中で一番安くて身近な材料です。なお、プラスターボードを縦横にむきを変えて貼ると、お互いの動きを止め合ってひびが入りにくくなるなど、この方法は、遮音以外にも効果を発揮してくれます。また、2枚のプラスターボードの間に遮音シートを挟めば、さらに高度な遮音効果をあげることができます。
なお、これらの対策を行った際は、せっかく作った壁に穴を開けないことをご注意ください。どうしてもコンセントやスイッチが必要な場合は、気密処理をしてください。日本住環境株式会社のバリアーボックスや松下の防気・防塵カバーを使えば、気休め程度には効果があります。(これも本来は遮音が目的ではありません。コンセントやスイッチの周りにも隙間無くグラスウールが充填出来れば良いのですが、そうは行かない事が多いのです。こうして出来たグラスウールの隙間は外気と同じ温度です。ここにスイッチボックスの穴から暖かくて水蒸気をたっぷり含んだ室内の空気が入れば一遍に結露を起こしてグラスウールを濡らします。暖房も断熱も必要が無いと言い切れる人はいいのですが、断熱をすれば気密を欠かす事は出来ません)
遮音(その2/居室)
遮音は、外壁だけではありません。隣の部屋への遮音も同様です。
主寝室の隣に子ども部屋が来たり、寝室の隣が便所や洗濯機というプランは、出来れば避けたいところですが、遮音の費用より土地代の方がずっと大きな問題だとすれば、遮音工事でプランの可能性を広げる必要もあるでしょう。
外壁と同じ様に、壁の両面にプラスターボードの二重張りを行い、グラスウールを入れて穴を空けないことです(壁を挟んで裏表にコンセントなんて事が良くあります。それだけで音は筒抜けです)。
さらに、天井もプラスターボード二重張り、床はフローリングと下地合板の間に遮音シート──ここまで出来ればかなり効果が期待出来ます。
換気と遮音
このように隙間を塞げば塞ぐ程必要になることがあります。それは「換気」です。
法律で24時間換気が義務付けられてから、各居室には外気の吸気口と排気口を付けなければなりません。居室の空気が直接外に排気される事もありますが、家全体の空気の流れを考えれば、まず居室に外気が取り入れられます。そこで暖房なり冷房がされた後、建具の隙間や部屋同士の通気口から廊下に出て、更に便所に入って、便所の換気扇から排出されます。家の中にこうした流れを作る事で、廊下や便所が寒いと言った事態も改善されます。一番風下の便所の匂いが他の部屋に行く事もありません。けれど建具の隙間や部屋同士の通気口は、音の通り道にもなってしまいます。換気と暖房のため床下が全て筒抜けのOMでも同じ問題が起きます。
外壁の遮音の他に、家の中でどこまで遮音をするのかは、家全体の換気や空調を左右する問題です。きちんと計画をする必要があります。吸気孔や通気口には多少の遮音性能を期待出来る既製品もあります。高度の遮音が必要な場合はそれぞれに消音マフラーを考えなければなりません。
響き
遮音に続き二つ目は、「響き」の問題です。
遮音の完璧な、例えば厚いコンクリートの箱であれば音楽を楽しめるでしょうか。
隣家への気兼ねが無くなるとは言えますが、楽しく音楽が聴ける訳ではありません。コンクリートの箱の中では、音に響きがつきすぎてとてもまともな音楽にはなりません。昔の日本家屋の様に四方八方に音の抜けて行く部屋の方が、音に変な響きがつかないだけマシかも知れません。けれど、音が周りに吸い込まれるばかりで一切反射の無い部屋も音楽を楽しくは聴けません。
部屋には適当な響きが必要です。
コンクリートは高い音から低い音まですべてを反射します。更に向かい合う壁同士、天井と床が平行だと特定の周波数で共振を起こして悪さをします。コンクリートの部屋には、家具や敷物、人間自体、色々な物を持ち込む事で部屋の響きを減らす事が出来ます。逆に、全ての音が吸い込まれてしまう日本家屋では、床の畳をフローリングに換えたり、ふすまの前にしっかりした木の反射板を置く事で、響きを良くする事が出来ます。
部屋と響きの特性
部屋にはそれぞれ音がどんな風に響くのか特性があります。
高音が響き過ぎるとキンキンシャンシャンとうるさくなります。高音の反射が足りないと音楽に精気が感じられません。低音も反射しない日本家屋でパイプオルガンやコントラバスを響かせるのは難しいものです。響きすぎると低音がモコモコして音を聴き分ける事が出来なくなります。
部屋の響きの特性をきちんと測る機械もありますが、手を叩けばある程度分かります。パンと綺麗に響いて一秒経たないうちに素直に消えてくれれば最高です。
『パシーン』と響く部屋は、高音のよく響く部屋でしょう。『パシーンインイン』と波があるときは、平行面で特定の共振が起きています。けれどこれは絨毯やカーテンを入れる事で比較的簡単に解決できます。厄介なのは『パオーンオンオン』と低音の響く部屋です。低音の反射は絨毯やカーテンでは止まりません。ある程度の厚さと重さのあるしっかりした材料で平行面を隠したり、収納や押し入れを開けて低音を吸い込む必要があります。
左右の響きが違うと左右の耳に届く音が変ってしまいます。折角コンピューターが捏造した音の組み合わせも違ったものになってしまいます。ゆくゆくは、音源と聞く人を挟んで左右の材料や形が違う場合も機械が補正してくれる様になるかも知れません。ただ、こちらは明日にでもと言う話でもなさそうです。しばらくは左右の環境が対称になる様にしておいた方が良さそうです。
最後に
音楽を楽しく聞く為には、家を建てる時でないと出来ない事も多いと思います。
家づくりを予定されている方は、折角の機会です、「音を楽しむ」ことについても、少し考えてみてはいかがでしょうか。
また、物の配置一つで音は変ります。毎日の暮らしの中でも、改善出来ることは沢山あるでしょう。部屋が変れば、高い機械を買うよりずっと効果が高いことも多いと思います。今まで詰まらなかった曲が突然素敵に思える事だってあるはずです。新しいCDを買うのも素敵ですが、部屋の響きが変ると、持っているCD全てを聞き直したくなるかも知れません。
1957年東京生まれ。1981年武蔵野美術大学造形学部建築科卒業。1981年〜1986年玉井一匡建築研究所勤務。1988年河浩介建築設計室設立、現在に至る。

















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