武山倫の調べるカタログ

第三章:場所

2008年10月03日 金曜日

気象データとシミュレーション

奥村設計所(OM研究所)では、パッシブデザインのツールとしてシミュレーションプログラムを開発してきました。

建築家が自分の設計のパフォーマンスを机上実験によって確認しデザインするための道具としてのシミュレーションは、当初奥村昭雄が自ら知りたいことを知るために、必要に迫られて着手したものでしたが、OMの研究部に荏原さんが加わって世界一のシミュレーションソフトに進化しました。

建築の室内環境シミュレーションは、パソコンの中にモデルを作って、そのモデルがおかれる環境をデータで再現してパフォーマンスを確認するものです。何を知りたいか…が問題になります。最初の興味は、空気熱媒体の太陽熱利用…その「屋根集熱」でいったい何度くらいの空気を得ることができるのだろうか?コンクリートへの蓄熱を解くことはできるだろうか?といった素朴なもので「だいたい」の把握を目標にしていました。それがやがて、この仕組みで室温はどうなるか?寒くない室内は可能か?この太陽熱利用でどれくらい省エネが図れるか?建物本体の熱性能を変えるとそのパフォーマンスはどの程度改善するのか。だいたいが解けるようになると、シミュレーションは実際の建物の挙動を再現できているのか…など その興味は尽きることがありませんでした。

同時に問題になったのが、シミュレーションに与える「気象データ」の構造でした。
シミュレーションは「パソコン」という計算機で行うものなので、その計算機の都合に左右されることも多く、シミュレーションと「気象データ」の関係は、パソコンの計算速度とメモリーとの間にデザインされていきます。

標準気象データと3代表日

気象データの整備にあたり、まず最初に、840地点のデータを持つ AMeDAS に着目しました。しかし840地点データは、日照・風向風速・湿度・雨量の4要素の観測データしかありません。この4要素から統計解析の手法を用いた推計処理によって、気象分析に必要な8要素を整備する試みがさまざま学会で発表されていました。

われわれが設計の検討に使っている、気象データは、時刻・気温・降水量・風向・風速・絶対湿度・法線面日射量・水平面日射量・夜間放射量・太陽高度角・太陽方位角 の12アイテムで構成されていますがこれは、AMeDASの観測した4要素と地点データ(緯度・経度)から計算によって整備されたものです。4要素からの推計処理の過程で、欠測データの補完など莫大なマンパワーの結晶として完備されたものです。AMeDASデータを同じような処理で「使えるもの」にする試みは建築学会でも進められていました。当初われわれは、その学会データの完成を待っていましたが、思うように進まず、「待ってられない」という感じで自社整備を進めた結果、当時の「OM標準気象データ」は、日本建築学会が「拡張アメダスデータ」を完成する2年前に完成しました。

「標準気象データ」は、1985年から1994年までの10年分 のAMeDASデータから12要素を生成し、その気象データからをHASP形式で整備されました。HASP形式による「標準年」とは、10年間の気象データにある 10個の1月(JAN)のデータを使って、建物の負荷計算を行い、計算の結果もっとも平均的な負荷を示した1月を標準年の1月として、順次代表の月を決めてつないで創った架空の一年のことです。
この365日24時間データでシミュレーションを行うことはできますが、情報量の多さが、計算の時間を長くし、結果を読み取ることを面倒にします。設計検討時に僕たちが知りたいことは、設計している屋根の集熱の能力と傾向であり、建物の熱性能の十分・不十分なので、入力データを変えて複数の検討を行う場合、計算時間と計算結果の分かりやすさが大切になります。

僕たちのシミュレーションプログラムでは、当初より計算処理時間を短くすることと、計算結果からの簡便な傾向の把握を前提に「三代表日」を採用してきました。ひと月30日の天気を日射量の多い順に並べ替えて、上から10日毎に「良い日」「中間日」「悪い日」とし、それぞれのグループからもっとも平均的な日を選んで計算する方法がそれです。

「平年値」

気象統計における「平年値」とは、“西暦年の1位が1の年から数えて連続する30年間の平均値”を意味します。従って、現在(2001年-2010年)の平年値は1971年-2000年の30年間の平均値で、2001年1月1日に改定されたものです。
2007年は、とても暑い夏でした。「観測史上最高」の気温を各地で記録したことは記憶に新しいことと思います。

2007年に観測史上最高を更新した地点

このように過去100年に一度、というような極端なデータは、「標準」や「平年」データで傾向を把握するときには注意が必要になります。

前述の秩序で、840地点のAMeDASから抽出した気象データの場合、特に雨量について、台風の影響など極端なデータが含まれている場合があります。雨の降り方は毎年異なりますので、HASP形式で抽出された月データをつないで創られた「標準気象データ」で雨の傾向を分析することには無理があります。

ぼくは、雨水利用について、貯水槽の大きさを検討するような場合、複数年の実際の降雨データで検討するようにしています。日本全国840地点・15年365日気象データで雨水利用シミュレーションできる「雨水利用プログラム」がEOMから公開されています。目に見えない雨水利用の状況、節水化が進む便器の貢献具合など、WinRAINで計算することができます。

EOM WinRAIN
http://www.sunqeom.com/#WinRAIN

気象データの読み方

以下は前述のHASP形式で抽象化した、「AMeDAS仙台」の標準年から一日の平均気温を365日分グラフ化したものです。このように実際の気温はかなりの幅で触れながら変化しています。このグラフから気温の傾向をどのように読むか解説します。

日平均気温グラフ 仙台

グラフに15℃と25℃の線を引いてみます。一般に一日の平均気温が15℃を下回ると暖房が必要になると言われています。また同様に冷房の目安として、25℃の線を超える部分を確認します。

日平均気温グラフ冷暖房目安 仙台

仙台の場合、春先4月下旬には15℃を超える日がありますが、再び15℃以下になる日もあり、一日の平均気温が15℃以下にならなくなるのは5月下旬になってからです。また、秋口、15℃を下回る日は10月下旬に現れますが11月になると15℃を超える日がなくなります。この10月下旬から5月下旬までの約7月が仙台で暖房が必要とされる「冬」になります。一方夏については、平均気温が25℃を超える日は7月下旬から9月にかけて断続的に現れています。5月下旬から7月下旬の2月と9月から10月にかけてのひと月は冷房も暖房も必要としない中間期になります。

同様に「AMeDAS八王子」を見てみましょう。初めて15℃を超える「春の訪れ」は、仙台より早いようですが、この気象データでは5月下旬に15℃以下になる日があり、冬の長さには大差がないようです。このように気象データで日本を見ていくと、ほとんどの地域で一年の半分くらいの時間が暖房を必要としていることがわかります。

日平均気温グラフ冷暖房目安 八王子

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  1. tamaさんからのコメント

    2008/10/15(水)20:37

    「調べるカタログ」も3回目をむかえて、高度な内容になってきましたね
    うぅんとうなりながら読ませていただきました。
    調べる事でデータ化される
    データに表されることで見えてくるものは紛れもない事実
    感覚だけで現象を捉えるのではなく
    しっかり把握して生かしていきたいですね

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