設計のみつくろい

玄関(郡裕美)

2008年10月08日 水曜日

玄関再考

建築家・郡 裕美(スタジオ宙 一級建築士事務所)

玄関を楽しく使う

玄関私たちが住まいについて語る時、ともすると、間取りや使い勝手などインテリアの話や、外観や仕上げなどデザインの話ばかりをしてしまう。でも、人の暮らしは、社会とのつながりをなくしては考えられない。だから、住まいをつくるとき、家と社会の関係について考えて設計することは、とても大切だと思う。つまり、家と社会との接点である玄関をどうデザインするかは、住宅設計にとってとても重要なことなのだ。人を優しく招き入れる玄関、人を寄せ付けない玄関。玄関は、住み手がどのように社会に向かい合うのか表現することになるし、ひいては、そのデザインによって近所付き合いや生活の仕方も影響されることになる。
私たちは、住宅を設計するとき、ちょっと広めの居心地のよい玄関を提案することが多い。そうすれは、そこは、格式にとらわれず、気軽に人を招き入れるサロンのようになり、玄関が、住まいと社会が出会う場所として活発に使えるからだ。それに、そこは、ベビーカー、車椅子を置いたり、犬の居場所になったり、土間ならではの使い方ができるし、日曜大工やゴルフ用具の手入れもできる。広い土間空間があると、暮らしが便利で豊かになると思う。
以下、私たちが、いままで設計してきた様々な住まいを例にとって、「玄関」の様々な可能性について再考してみたい。

[設計:郡裕美+遠藤敏也/スタジオ宙]

薪ストーブのある玄関

杜の墨家(すみか)

外観
外観

土間の玄関(サロン)
土間の玄関(サロン)

内部
2階LDKとつながるデッキテラス

最近のマンションや建て売り住宅の玄関は、信じられないくらいに小さい。人が立って通り抜けるのがやっとで、確かに靴の脱着という最低限の機能は果たせるものの、ブーツの靴ひもを結んでいるときなど、まったくもって情けなくなる。腰掛ける場所もなければ、荷物を置くところもなく中途半端な姿勢を強いられる。
「どうせ玄関を作るなら、椅子とテーブルが置けるくらいの、大きめの土間の部屋にしたらどうでしょう」そんな提案が現実化したのがこの家。休日に友人を呼んでバーベキューをするのが大好きな家族にぴったりの開放的な玄関(サロン)が出来上がった。常設ダーツ場が設置され、薪ストーブもある。土足使いの応接間兼リビングになるここは、建具を開け放して庭とつながるパーティー会場にも早変わりする。そして、外階段を上ると、2階から直接部屋に入れる大きな縁側の様なデッキテラスがある。ここは、天気の良い日は外のダイニングになり、家庭菜園の野菜はここから直接キッチンに持ってゆける。(土間、庭、テラスを楽しく使っている様子が、雑誌『チルチンびと』2008年7月号(24―34頁)に紹介されているので、時間のある方はご高覧ください。)

2007年竣工 写真:スタジオ宙

玄関をサンルームにする

天竜川の家 VF0007

外観
外観

サンルームの玄関
サンルームの玄関

内部
LDKにつながるサンルーム玄関

私は貧乏性なのか、ひと通りにしか使えないものが好きでない。家も同じである。一つ場所が、様々な用途で、いろいろな機会に使われるのがいいと思う。さて、玄関という土足履きの場所、ほかに何の機能を兼ねられるか考えてみた。玄関以外で土足履きでもいい場所は…?そうだ、玄関とサンルームをかねた部屋を作ろう。というわけで、住まいの南側にサンルームをくっつけて玄関とした。そこは外の冷たい空気を遮断する風除室になるし、土間に太陽熱を蓄熱すれば、ダイレクトゲインでパッシブソーラー効果も期待できる。一石二鳥だ。そして、もちろん、そこで家族もくつろげるし、気持ちよい接客スペースにもなる。

2000年竣工 静岡県浜松市 写真:池内功和

薪置き場にもなるサンルーム玄関

長野の家 VF0403

外観
外観

サンルームの玄関
サンルームの玄関

内部
LDKにつながるサンルーム玄関

田舎暮らしをしたいと、さいたま市から佐久平に移り住んだ建て主は、サンルームの玄関がお気に入りである。巻き置き場、ゆっくりお茶を飲む場所として楽しんで使ってくれている。(『住まいの設計』2005年5月号(73頁―77頁)にサンルーム(玄関)を楽しんでいる様子が紹介されています。時間のある方はみてください。)

2004年竣工 長野県北佐久郡 写真:スタジオ宙

花ちゃんの居場所

西大路花屋町の長屋(増改築工事) 

土間のある玄関
土間のある玄関

ライブラリー兼カフェのように
ライブラリー兼カフェのように

内部
居間から玄関を見る

それまでは,おもての犬小屋で飼われていた花ちゃんが、家を改装して以来、いつも家族といっしょにいられるようになった、そうか、土間があると家の中に犬の居場所ができるんだ。
また、家主は、近所で塾を経営しているため、いつも塾の生徒が家に出入りしているが、玄関に本棚とお父さんの形見のソファセットを置くと、そこは、子供たちが自由に過ごせるライブラリー兼カフェのようになった。
これは、京都の長屋の再生プロジェクト。もともとあった小さな前庭にガラス屋根をかけ、三畳間を土間にして、広い玄関にした。下駄箱の扉は、古い家の建具を再生して使った。

1999年竣工 京都府京都市 写真:スタジオ宙

玄関の段差にかわるもの

武蔵野市立吉祥寺本町在宅介護支援センター

外観
デッキテラスのある玄関

段差のない玄関
中庭の左はショートステイ、右がデーセンター。
手前は、可動式の手摺付きベンチ。

段差のない玄関。グレーの部分が土足エリア。
段差のない玄関。グレーの部分が土足エリア。

「やっぱり、ちょっとでいいので段差をつけてください。そうしないと、埃も入ってきますからね。」いったい、5センチ程の段差によってどのくらい埃が防げるのか調査したことがないのでよくわからないが、バリアフリーの住宅を望む中高年の人でさえ、この段差はよほど重要なものらしく、最終的にバリアフリーであることを諦めてでも、玄関に段差を設ける要望をする施主が多い。そう、どこで靴を脱ぐかというのは、日本人にとって重大問題なのだ。玄関の段差、内外のけじめのラインが曖昧だとどうも落ち着かないらしい。この問題は、住宅だけでなく高齢者施設などの設計をする時にも遭遇する。車椅子の人はどうするの?という疑問があるのに、やはり、打ち合わせ担当の役所の人も、利用団体の人達も、なんとかして玄関に段差を設けたいと主張する。しかし、高齢者施設の場合は、そうはいってもやはり段差をつける訳にもいかず、「じゃ、こうやってここでタイルの色をかえれば、ここから先が土足だってわかるでしょ?」と、なんとか納得してもらう。以下は、玄関(土足エリア)のタイル色を変えた例。玄関にテーブルセットを置ける大きさに設計した。お迎えの家族など、土足履きのまま椅子に座って待つことができ、気軽な交流スペースにもなる。また、玄関の外側には、大きな縁側のようなデッキテラスを設けた。これで、町の人も気軽に立ち寄れる。玄関は、町と建物の対話スペースとして活発に使われることになった。向こうに見えるのは、可動式の手摺付きベンチ。靴の脱着をするために気軽に座れるよう設計した。

2005年竣工 東京都武蔵野市 写真:スタジオ宙
郡 裕美(こおり ゆみ)

1960年愛知県生まれ。京都府立大学生活科学部住居学科卒業。アルテック建築研究所を経て、1986年、MYU(みゅう)設計室設立。1991年一級建築士事務所スタジオ宙(みゅう)に改称。株式会社スタジオ宙を設立。1994年コロンビア大学建築学科修士課程修了。同大学建築学科准助教授就任に伴い、1996年ニューヨーク事務所を開設。同年、資本金1000万円に増資。空間を体験した人がその美しさ、楽しさに感動できる建築をめざし、住宅、マンション、店舗、公共施設の設計の他、古民家再生、町並みデザインを手がける。また、アートと建築の融合を目指し、パブリックアートの企画運営をするなど、多岐に渡って精力的な空間創造活動を行い、国内外の様々な建築賞を受賞。

この記事をTwitterでつぶやく  このエントリをはてなブックマークに追加 このエントリをdel.icio.usに追加 このエントリをLivedoor Clipに追加 このエントリをYahoo!ブックマークに追加 このエントリをFC2ブックマークに追加 このエントリをNifty Clipに追加

コメント・トラックバック

この記事へのトラックバックURL :
  1. 郡裕美さんからのコメント

    2008/10/14(火)13:19

    コメントありがとうございます。私は、いつも、「家を楽しく使えるようにすれば、毎日の暮らしが楽しくなる。」と思いながら建築設計の仕事をしています。「びお」を通じて、住まいについて、いろいろ再考できるといいですね!

  2. ゆきさんからのコメント

    2008/10/12(日)06:58

    とてもたのしい設計をなさるのですね。設計は考え方ひとつなのだ、ということがよく分かりました。スタンダードハウスなのに、いま4人もいて、「七人の侍」をめざされているのも、設計の考え方や、個性に違いがあるからなんだ。郡さんのスタンダードハウスを見たくなりました。「びお」で勉強して、じっくり家をつくろうと考えています。

この記事へのコメントRSS

コメントはこちらから!

コメント

町の工務店ネット町の工務店ネット

住まいネット新聞「びお」は、
町の工務店ネットがお届けしています。

最近の記事

記事を探す

月別

カテゴリー別

タグ別

ツイッターtwitter

びおの関連・関心を
タイムリーにつぶやきます!

現代町家現代町家

その家は、前を通る人の家でもある。


ページトップ